みなさん、「腸」についてどれぐらい知っていますか? 食べ物を消化・吸収し、余った分を便にする、くらいの知識はあったとしても、腸の全ての機能を把握している人はそう多くはないのではないでしょうか? 

半世紀にわたって腸と腸内細菌を研究してきた辨野義己(べんの よしみ)さんの著書『「腸内細菌」が健康寿命を決める』によると、腸は免疫やホルモンを生産する最大の器官でもあり、末梢神経の50パーセントが集まっているので情報伝達機能も有しているのだとか。

また、タイトルにあるように腸は寿命にも影響力を持っていて、長寿地域で暮らす方の腸内からは「長寿菌」と呼ばれるいくつかの善玉菌が平均よりも多く検出されたそうです。

このように腸と健康の関係について興味深い知識が満載の同書ですが、今回はコロナ禍の影響で多くの人が強い関心を寄せているであろう「免疫」について書かれた部分をご紹介します。


ウイルス感染を防ぐカギは腸内環境にあり

 


私は腸内細菌という微生物の研究者ですから、微生物のひとつである新型コロナウイルスについて意見を求められることがあります。そもそもウイルスの正体が不明なので、多くのことは答えられませんが、「油断せず、怖がりすぎず、冷静に対応すべき」という前提のもと、次のようにお答えするようにしています。

 

「微生物を研究する者として思うのは、我われは常に微生物の攻撃をうけている現実のなかで生きています。そのなかでも新型コロナウイルスは、2002年に流行したSARS、2012年に流行したMERSと同様のコロナウイルスで、その意味では特異ではない常在性のウイルスです。たとえば狂犬病ウイルスといった、いわゆる外来性の強いウイルスではありません。エイズウイルスと比べても病原性はそれほど強くありません」

すると質問した人の顔から不安が少し消える。そして次の質問がくるのです。

「健康管理をする。密を避ける。マスクをする。手洗いうがいをする。その他にやるべきことがありますか」

私の答えは「免疫を正常に機能させる腸内環境を作れば、感染症に強くなります」というものです。なぜならば、人間の免疫担当細胞の70パーセントを腸内細菌が操っているからです。