2. 再発や転移の可能性は?
→確率はおよそ1割。10年以上経って見つかることもあります。


乳管の内側にがんがとどまっている「非浸潤がん」は、乳房の部分切除や全摘などで“がん”を取り除くことができれば、転移の可能性はほぼありません。

乳管の外側にがんが広がってしまう「浸潤がん」は、たとえば全摘をしてもがん細胞が血液やリンパをたどって遠くに広がるため、再発や転移の可能性は否めません。

乳がんの再発・転移の確率は?乳腺専門医への取材でわかった、治療の最新事情_img0
 

ちなみに、浸潤がんの患者さんの予後(治療後の経過のこと)については、乳房を全摘した人と温存した人とで、がんが再発する割合に大きな差がないことがわかっています。そのため、再発を予防する最善の治療は、手術の内容ではなく全身の薬物療法です。全身療法を先に行って手術の内容を決めることもあります。全身療法と手術はセットですね。

 

乳がんになった患者さんのうち、再発・転移する確率は1割程度だと言われています。1度目の治療から、5年以内に見つかる方が多いですね。ただ、おとなしい性格のがんだと、10年以上経って見つかることもゼロではありません。実際、私の患者さんで13年目に再発した方もいますから、乳がん発症後は一生を通して注意していくに越したことはありません。

非浸潤がん・浸潤がんとは別の観点ですが、“がんになりやすい遺伝子”を持つ方もいます。乳がんに罹患したことのある血縁者がいる方で、遺伝子の検査で「遺伝性乳がん」と診断された方がそれに該当します。遺伝性乳がんの患者さんは非浸潤がん・浸潤がんにかかわらず、再発や転移を発症しやすい傾向があります。

なお、最初にできた乳がんは「原発(げんぱつ)乳がん」、再発した乳がんは「再発乳がん」として区別されます。


「転移」したがんの考え方


“三つ子の魂百まで”ではないですが、がんは「一番はじめにがんができた場所」が重要です。乳がんが肺に転移した場合、診断は「肺がん」ではなく「乳がんの肺への転移」となります。実際、乳がんから肺に転移したがんは“乳がんの性質”を持っているので、新たに肺がん治療を始めるのではなく、乳がん治療を継続することが基本です。たとえば、日本人がイタリアやフランスに移住しても、人種が変わるわけではありませんよね。がんにも似たようなことが言えるのです。


同時に「複数のがん」が見つかったら


ちなみに、はじめから乳がんと肺がんが同時に見つかった場合などは、どちらがより患者さんの命を脅かす恐れがあるかを調べ、進行が早い方から治療を行うなどします。ただ、同時に見つかった肺のがんが乳がんから転移したものだと判明すれば、それはつまり乳がんが“ステージⅣの状態”であることを表しています。ステージⅣということは、患者さんの寿命にも大きく関わるということですから、手術よりもまず薬物療法による「全身治療」を優先する必要があります。

このように、乳房以外のところに同時にがんが見つかった場合は、乳がんの治療にも大きく影響するため、元々そこにできたものなのか、乳がんから転移したものなのかなど、がんの“出身地”を調べることがとても重要になってくるのです。

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緒方晴樹 Haruki Ogata

目白乳腺クリニック院長。日本乳癌学会乳腺専門医・指導医。20年以上にわたり乳腺外科を専門とする。東京逓信病院では乳腺センター立ち上げに尽力、センター長として多くの乳がん患者の治療にあたった。2019年2月、女性が気軽に受診できる「乳がん検診・治療・フォローアップ専門クリニック」として、目白乳腺クリニックを開院。


取材・文/金澤英恵
イラスト/徳丸ゆう
構成/山崎恵

 

【全10回】
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第2回「おっぱいチクチクは乳がん?乳腺症?乳腺専門医が教える乳がんセルフチェック法」>>
第3回「マンモグラフィとエコー、片方じゃダメな理由と病院選びのポイント【乳がん検診】」>>

 
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