がんという病気を考えるうえで避けては通れないのが「遺伝」の可能性。“がん家系”なんて言葉もありますが、では親戚にがんになった人が複数いたとして、そうでない人と比べてどれくらいリスクが高いのか、自分で分かっている人はそんなに多くはないのではないでしょうか。そこで今回は、乳がんにおける遺伝リスクと対処法について、目白乳腺クリニック院長で乳腺専門医の緒方晴樹先生にわかりやすく教えていただきます。

 


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1. 身内に乳がんの人がいるけど、乳がんって「遺伝」するの?
→可能性はあります。もちろん、絶対になるとは限りません。


実は、乳がんの約7〜10%を占めるのが「遺伝性乳がん」です。ですから、この質問については「遺伝する可能性はある」ということになります。とはいえ、母や姉妹、叔母など、血縁者に乳がんになった方がいるからといって、自分も絶対に乳がんになるとは限りません。一生がんを発症しない人もいます。

遺伝性の乳がんは、医学的には「HBOC」と呼ばれるもので、別名では「遺伝性乳がん卵巣がん症候群」といいます。このHBOCは、「BRCA1」または「BRCA2」という“遺伝子の病的な変異”がきっかけとなって生まれるがんです。BRCA遺伝子の変異は親から子に、男女関係なく2分の1の確率で受け継がれると言われていて、乳がんの原因だからといって母親に限らず、父親の遺伝子が変異している場合も同様です。

HBOCの原因となるBRCA遺伝子が変異しているかどうかは、遺伝子検査で調べることができます。ただ、この検査はどこでも、誰でもできるわけではありません。担当の医師に乳がんと診断されたのち、「遺伝子外来」や遺伝子専門カウンセラーがいる病院の紹介状をもらうなどして受けられるものです。以前は保険適用外でしたが、2020年4月からBRCA遺伝子検査が保険適用で受けられるようになりました。

検査の結果、BRCA遺伝子に変異が認められた場合は、乳がん・卵巣がんの発症リスクが高い体質であると言えるため、予防的に切除するかを検討していくことになります。


HBOCの特徴とは?


今はがんになっていない部分の「予防切除」まで視野に入れるのは、一般の乳がんに比べ、HBOCには以下のような特徴があるからです。

・乳がんと卵巣がん両方を発症しやすい
・若くして乳がんを発症しやすい
・両方の乳房にがんを発症しやすい
・片方の乳房に複数回乳がんを発症しやすい
・トリプルネガティブ乳がん(進行が早い乳がん)が多い など

ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんは以前、両方の乳房と卵巣・卵管を切除したことを公表しましたが、これはHBOCの検査でBRCA遺伝子に病的な変異があったため、自身で予防切除を選択したということです。ただし、日本における予防切除手術には保険適応が認められないものもあるため、注意が必要です。

 
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