「これにてちょっと連ドラはお休みします」

 


2018年3月——、『anone』最終回の直後、坂元裕二さんが自身のInstagramで“連ドラお休み宣言”をされました。2010年、数々の賞を総なめにした話題作『Mother』以降、『それでも、生きてゆく』(2011年)、『最高の離婚』(2013年)、『Woman』(2013年)、『問題のあるレストラン』(2015年)、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(2016年)、『カルテット』(2017年)と、ほぼ毎年連ドラの脚本を担当し、人気作を世に送り出してきた坂元さん。2018年から3年の時が経ち、4月13日スタートの『大豆田とわ子と三人の元夫』で、ついに連ドラ復帰されます。

 


“終わりから始まるラブストーリー”
坂元脚本の恋愛のリアリティ


『大豆田とわ子と三人の元夫』は、3回離婚しているバツ3女性・大豆田とわ子(松たか子)が主人公のストーリー。さらに、とわ子のことを忘れられない“三人の元夫”として、岡田将生さん、角田晃広さん、松田龍平さんが出演します。

「大豆田とわ子と三人の元夫」2021年4月13日スタート 毎週火曜夜9:00/フジテレビ系

“離婚”をテーマにした坂元さんの作品というと、『最高の離婚』を思い出す人も多いのではないでしょうか。私は、このタイトルを初めて見た時、「結婚していた夫婦が、紆余曲折を経て、最終回で離婚するストーリーなんだろうな……」と想像しました。しかし、ドラマ一話が放送されると、その安易な考えはすぐに打ち消されることに。なんと、第一話で夫婦は離婚届けを提出するのです。まさに、“終わりから始まるラブストーリー”。

『大豆田とわ子と三人の元夫』も、とわ子が三人の“元夫”に、振り回されながら日々奮闘していくストーリーのようです。作中で恋が展開していくのかはまだ分かりませんが、“元夫”という、いわゆる別れた存在に振り回される……というところが、坂元脚本らしいなと感じました。実際の恋愛でも、別れた翌日から、「キレイさっぱりさよなら!」とできる人って、案外少ないのではないでしょうか。別れても連絡を取ってしまったり、好きという気持ちがなくなったとしても、相手が困っていたら助けてあげたくなったり……長く交際を続ければ続けるほど、スパッと割り切れないのが恋愛だと思うんですよね。『最高の離婚』のように、別れてから大切な存在に気付くことだってあります。

『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(以下、『いつ恋』)の最終回でも、こんなシーンがありました。音(有村架純)が、家に帰る道を教えると、練(高良健吾)が、「近道?」と聞きます。すると音は、「ううん。遠回り」と返したのです。“遠回り”こそ美しいということを知っているような、幸せそうな笑顔で。二部構成になっていた同作でもそうでしたが、出会って、別れて、また出会って、新たな関係性を構築して……と、坂元脚本には“遠回り”な恋愛を描いたものが多いような気がします。だからこそ、リアリティがある。


『花束みたいな恋をした』に見る
考察が考察を呼ぶ意味深なシーン


また、現在大ヒット中の映画『花束みたいな恋をした』でも、坂元脚本らしさが伺えます。観終わったあと、「このシーンってどういう意味なんだろう?」と誰かと語り合いたくなるような。特に、同作ではそれが顕著でした。一語一句たりとも、聞き逃せない。

例えば、絹(有村架純)が、恋人の麦(菅田将暉)に、「女の子に花の名前を教わると、男の子はその花を見るたび、一生その子のことを思い出しちゃうんだって」と言うシーン。麦に「教えてよ」と言われても、絹は、花の名前を最後まで教えませんでした。その理由は、思い出にして欲しくなかったからなのか、花の名前を教えなくても、2人の間には花束のような思い出がたくさんあることを知っているからなのか。はたまた、別れた後に思い出して欲しくなかったからなのか……。ただ、その絹が教えなかった花というのが、実はマーガレットで、その花言葉は、「真実の愛」「優しい思い出」。そして、「私を忘れないで」——。

このシーン以外にも、ネット上では、同作についてさまざまな考察が飛び交っていました。「坂元さん、解説集を出して!」と思った人もなかにはいるのでは? しかし、答えが分からないからこそ、作品と向き合うことができる。そこで、大切な人と意見が違ったとしても、“遠回り”をして語り合えばいい。いつか振り返った時に、その瞬間こそが、花束のような時間だったと思えるかもしれないから。

『大豆田とわ子と三人の元夫』でも、坂元脚本らしい心に残る台詞がきっと誕生するはず。名作『カルテット』でも、坂元さんとタッグを組んでいた松たか子さんと、松田龍平さん。そして、岡田将生さんと、角田晃広さんの4人が織りなす会話劇は、どのようなものになるのか……。毎週火曜日の夜が楽しみになること間違いなしです!


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