――仕事をするママにとっては、共感しかないエピソードですね……。

 

子供を産んで最初の1ヶ月は、育児本に書いてあることと全然違うじゃん!って、衝撃の日々でした。
3時間どころか30分おきのエンドレス授乳で、私はいつになったらおっぱいしまえるんだろう……って、常に遠い目になっていました(笑)。

 

これまで撮影で徹夜することなんてしょっちゅうあったし、寝れないことへの耐性はできていると思っていたけど、現実は話のレベルが違った。ナメててすみませんでした!!って土下座したいくらいです(笑)。

2時間でも3時間でも、ひとりで集中して眠れたら全然違ったと思うけど、常に気掛かりな存在が横にいて、少し泣いただけで目が覚めてしまう状況下で安眠することは不可能に近かったし、睡眠不足って人間をこれだけ追い詰めるんだなと。

やっと寝たかなと思って爆弾処理班のごとく、ものすごーく慎重に子供をベッドに置いて、そこからまたゆっくり立ちあがろうとした瞬間、私の足の関節の音がポキッと鳴って、その音でまた子供が泣いて起きる、みたいな(笑)。
あの瞬間の絶望感ったらないですよねぇ。「またゼロからやり直しだ……」っていう。

今では笑い話だけど、当時は本当に追い詰められていた気がします。
特に深夜から明け方にかけての孤独感ったらなかった。毎日夜が明けると、「ああ……生き延びた……」って、おいおい泣いてた。

私は旦那さんを頼ることがうまくできなかったから、ひとりで勝手に抱え込んで、しんどくなって、それでもツライって言い出せなくて、本当に悪循環でした。
だから産後3ヶ月で仕事復帰して、息子と否応なしに離れられる時間があることに救われていたような気がします。

腫れ物に触るように恐る恐る育てていたから、私のそういう精神状態が息子を追い詰めていたのかもしれませんね。
なぜ、もっと気楽に考えられなかったんだろう。あの時をやり直したいなって思うことがたくさんあります。泣いたって、グズったって、あんなにかわいかったのに。
悔やむことは山のようにあるけど、でもあれがあの頃の私の精一杯だったんですよね。

良いベビーシッターさんにも恵まれ、安心して仕事に集中できたし、外の空気を思い切り吸い込むと、また新鮮な気持ちで息子にも向き合えるような気がしました。
サポートしてくださる方に恵まれたからできたことだと思います。

――妊娠中から産後の復帰まで、あっという間だったでしょうね。

改めて振り返ってみると、12歳で仕事を始めて以降、長いお休みをとったのって、妊娠6ヶ月くらいから産後3ヶ月までの、産前産後の間が初めてなんです。

産休中は、“妊娠ハイ”状態でした。それまでは、限られた人たちと限られたエリアだけで生活することが自分にとっていちばん大切なことだったけど、急にいろんな人に会ってみたい欲がムクムク湧いてきて。妊娠をきっかけにいろんな人に出会いました。
いろんな人に会って、いろんな話を聞いて。安定期に入ってからは心身共に元気だったから、毎日3時間歩いていたし。ひとりで散歩ばっかりしていましたね。

それまでコンスタントに小さいお休みはありましたけど長期ではなかなかなかったし、休むっていう発想がそもそもなかったような気がします。
今まで当たり前に見ていた景色も、お腹に子供がいると思うと、全てがスペシャルに見えるというか、本当に愛しい日々でした。

 

――子供ができてから、作品との向き合い方やお芝居のスタンスは変わりましたか?

変わったと思います。
根本的なメンタリティはそのままだけど、仕事に向かう意識が変わったんじゃないかな。本当は、100%面白いと感じられる仕事だけやっていたいというのが本音だけど、でも仕事ってそうじゃない時もありますよね。

これまでは、関わる仕事に対して愛情を持てないことを“悪”だと思っていたけど、でも私たち役者は機械ではないし、面白いと思ったり面白くないと思うことは自然なことだと感じられるようになった。

「これはあくまでも私個人の主観なんだから、逆にどうしたら楽しいって思えるだろう?」って目線を変えてみたり。ちょっと視点を変えられるようになったというか、いい意味で適当な余白が生まれた気がします。物事を俯瞰できるようになった。

息子が中学生の時に、「ママの仕事はいいよね。いつも楽しそうで」って言われたことがあって、ものすごーく衝撃だったんです。舞台の稽古に入れば、心の声がついつい漏れまくるし、イライラもするし、心ここに在らずで家事をやっているので、私は常に自分の仕事で息子に迷惑かけてると思っていたから。
まさか「楽しそう」なんて印象を持たれるとは思ってもみなかった。

 

――でも客観的に「楽しそう」って思われているのは、自分ではどんなに仕事がしんどいと思っていても救われるというか、嬉しいですよね。

この仕事って、「はじめまして」と「さようなら」の繰り返しだから、次の作品に入る時は全てをリセットするしかないでしょ? でも、どんな現場にもやっぱり愛着があるわけだから。

最初は覚悟もなく始めた仕事だけど、気付けばどんどん好きになって、だからこそしんどいことも増えてきたんだと思います。もっと単純に仕事だと割り切ることができたら、いろんなことがスムーズに進むだろうな、と思うことは今でもあります。

ベースに“好き”があるからこそ許せないことも出てきてケンカになることもあるけど、その感情を忘れてしまったら、もう仕事をしている意味はないと思うから。
もちろん仕事は生きていくため、息子を育てるための術でもあるけど、自分のベースに“好き”があるから続けてこられたのだと思います。

撮影/若木信吾
スタイリスト/斉藤くみ
ヘアメイク/伴まどか
取材・文/細谷美香
構成/片岡千晶(編集部)
この記事は2021年4月2日に配信したものです。
mi-molletで人気があったため再掲載しております。

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前回記事「ともさかりえの女優という仕事「10代で一番働いていた時のお小遣いは月5000円でした」」はこちら>>

 
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