自らもDVサバイバーでシングルマザーのソーシャルライター・松本愛さんが、DV当事者の「声」を丹念に拾い上げ、日本のジェンダー意識の遅れの実態をレポートします。公私共にパートナーだった男性と授かり婚したBさん。しかし結婚後に夫は「俺は男尊女卑だからな」と高らかに宣言、自己破産していた過去も判明しました。その上同居する義母は酒乱で……。

※個人の特定を避けるためエピソードには脚色を加えている場合もあります

 


シングルマザーか、夫と義母とやり直すか


酒乱の義母に度々絡まれるようになったBさん。

ぶつけられたひどい言葉は数知れず、中には「こんなの家族じゃないわ! 実家に帰りなさいよ」などと言われたこともあったといいます(何度も言いますが、マンションの契約者はBさん!)。

夫と義母のいる家が自分の家ではないように感じられ、仕事が終わってもまっすぐ帰れず、家の前の公園で自分の母親に「離婚したい」と泣きながら電話で訴える日々。耐えきれず、一度は実家に帰ることにしたBさんですが、問題は5カ月を過ぎようとしていたお腹にありました。

基本的に中絶は堕胎罪と言って、犯罪行為にあたります。

多くの女性には、どんな経緯であれセックスをすれば妊娠する可能性があり、妊娠・出産は命懸け、子供を産めばその後の人生を大きく左右する出来事にもかかわらず、一度妊娠してしまえば、その出産の決定権は女性にはありません。

 

しかし堕胎罪にも例外があります。それが母体保護法による人工妊娠中絶。

妊娠の継続又は分娩が身体及び経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれがある場合、暴行もしくは脅迫により、抵抗・拒絶できない間に姦淫され妊娠した場合のみ、医師会から指定を受けた医師により、本人及び配偶者の同意を得ることによって、妊娠22週までなら母体保護法第14条により人工妊娠中絶が認められるのです。

配偶者の同意に関しては、配偶者の所在が知れない、もしくはその意思を表示することができないとき、配偶者が亡くなっている場合のみ本人だけの同意だけで良いとされており、それ以外の事情では配偶者の同意なき中絶は現法では認められていないことになります。

つまり、もう妊娠5カ月を過ぎたBさんには、妊娠後に相手が豹変し、離婚を見据えざるを得ない状況に追い込まれながらも現行法下では産む選択肢しか選べないということ。

許される選択肢はシングルマザーか、夫と義母とやり直すか。

もちろん望んだ妊娠で、Bさんにとっては子どもを持つ最後のチャンス。しかしシングルマザーを選べば人生は大きく変わってしまうし、今の仕事も続けられなくなることは明らかでした。そこでやむを得ずBさんは、義母から実家の母宛てに詫びの電話がかかってきたことをキッカケに、家に戻ることにしました。謝罪と言いつつ、その実態は「あんなお嬢さんでお母様も大変ですね、精神年齢が低いですよね」などの暴言でしたが、ここまでされてもBさんにこれが異常だという自覚がなかったのです。

あるのは「なんかわからないけどつらい」そして「なんでお義母さんとうまくできないんだろう」という自責の念のみ。夫がちょいちょい間に入ってくれ、「母さんに言うから」などと言ってくれることもあるから余計かきたてられる罪悪感。

「言いたいことがあるならちゃんと言ってほしいし、それぞれ一緒にすり合わせていくためにも話してくれないとわからない。お願いだから溜めないで話してほしいんです」

だからこそ、家に戻ってそう懇願したBさん。しかしその後も義母から投げつけられるのは具体的な指摘ではなく「あなたには思いやりがないから」「幼いのよ」などと、人格を否定するような言葉ばかりでした。

 
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