自らもDVサバイバーでシングルマザーのソーシャルライター・松本愛さんが、DV当事者の「声」を丹念に拾い上げ、日本のジェンダー意識の遅れの実態をレポートします。公私ともにパートナーだった男性と授かり婚したBさんは、酒乱の義母とマザコン夫との同居生活で不安定な精神状態で臨月を迎えます。そして4日間も陣痛に耐えた末、緊急帝王切開で出産したのですが……。

※個人の特定を避けるためエピソードには脚色を加えている場合もあります

 


出産の苦しみと帝王切開への罪悪感でうつ状態に


陣痛促進剤投与からの緊急帝王切開。これはいわゆるフルコースと言われる超過酷な出産です。しかもそれが4日間、これは専門家にたずねても「ちょっと長いね」と驚かれるほどの大変さ。夫に「子どもへの愛情が」と言われたため、できる限りがんばったのに叶わなかった経膣分娩。その呪いの言葉をぶつけてきた張本人から、ボロボロの体、朦朧とした意識のBさんに向かって無邪気に放たれる「今が人生で一番幸せでしょう?」という無神経なセリフ。

結婚してからずっと苦しかったBさん。

その苦しみさえ理解してくれなかった人に一番の幸せを決めつけられることに対してあまりにも理不尽だと感じ、そして夫に対して、自分の人生の何を知っているわけでもないのに、と怒りとショックを感じました。

でもそこは術後。体力は限界で意識は朦朧、傷と後陣痛の痛みでベッドの上で身動きさえ取れない状況で、その怒りはまた遠くに押しやられてしまいました。

帝王切開の傷口が痛み、体が思うように動かず、起き上がるたび息が止まりそうになる。だからトイレにも間に合わず粗相してしまって情けなくて泣いてしまったというBさん。後陣痛も激し過ぎて低血圧を起こし卒倒しました。

しかしBさんが入院していた病院は自然派の産院。

だからこそ帝王切開まで4日もかかり、帝王切開でも術後2日目から母子同室。そして大部屋。赤ちゃんを泣かせるのが他の人に申し訳なく、授乳とミルク、オムツに抱っことお世話に追われて全く眠れない日々が始まりました。

そしてボロボロのまま2週間で退院。1カ月検診まで記憶は曖昧だといいます。猛烈に覚えているのは、検診時に病院で他の幸せそうな妊婦さんや新生児を見て、出産の苦しみと帝王切開への罪悪感で涙が止まらなくなったこと。

うつ状態です。自分の異変を感じたBさんは、夫に訴えました。

 

「経膣分娩じゃなかったけど、子どもへの愛情は変わらない。何の根拠もないあの言葉が引っかかって子育てがつらい。謝罪して撤回してほしい」

すると夫は言いました。「傷つけようと思って言ったわけじゃないのに、俺を悪い夫だと思ってるのか? 俺を信じていないのか!?」と。そして結局、謝罪も撤回もなし。

それからはさらなる泥沼です。

 
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