時代の潮目を迎えた今、自分ごととして考えたい社会問題について小島慶子さんが取り上げます。

 

「日本は男尊女卑依存症社会だ」

『男が痴漢になる理由』などの著作で知られる精神保健福祉士の斉藤章佳さんは、そう指摘します。男尊女卑、つまり男性中心で女性が低く見られ「男は仕事、女は育児と男のお世話」と役割が決められた社会では、女性も男性も生きづらい。そのしんどさから逃れるために、かえって男尊女卑に頼ってしまうというのです。お酒をやめられない自分を忘れるために、またお酒を飲んでしまうように。

 

日本は先進7ヵ国で最も男女格差の大きな国。先日発表された世界経済フォーラムのグローバルジェンダーギャップ指数2021でも、156ヵ国中120位で、相変わらず政治経済分野でのジェンダー格差が大きいのです。
「女性のやる気の問題じゃないかな。むしろ長時間労働で辛い目に遭っているのは男性の方だよ」という人もいます。私も41歳で大黒柱になって、一家を支えた父のしんどさが、やっとわかりました。

ただ、だからと言って「つらいのは女性よりも男性の方だ」と言えるでしょうか。2018年の医学部入試不正問題では、女性の受験者をより合格しにくく、男性の受験者をより合格しやすくするために点数を操作していたことが判明しました。過酷な医師の仕事に適応できない女性は、育てても無駄だというのです。そんな働き方をしなくてはならない現状を変えずに、女性を排除する。女性が不利に、男性が有利になる社会は、やはり男尊女卑社会です。
また、そうした過酷な労働による男性の被害者意識が、女性への暴力や差別を正当化してきた面もあるでしょう。

「男は仕事、女は育児と男のお世話」という前提で設計されている社会では、男性は仕事漬けで家計を支える生き方から降りられません。そのストレスの捌け口として「女は男に寄生している」と女性を蔑むのが、男尊女卑依存症です。しんどさから自由になるには、女性を貶めるのではなく、構造そのものへの異議申し立てをする必要があります。「こんな非人間的な働かされ方はおかしい。賃金格差をなくし、女性も男性も柔軟に働けるようにすれば、家計の負担が男性だけに偏ることがなく、誰も仕事のために人生を犠牲にしなくても済む」と。発想を切り替えることが、男尊女卑依存症からの回復の第一歩です。

 
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