重度のフレイルになった祖父への後悔の念


病院に運ばれた祖父は混乱していて、手にはミトンをつけられていました。せん妄といって、入院したり重い病気にかかったりすると、視界が急に狭められたような状態となり、恐怖や不安から混乱し、自分の意図とは無関係に点滴を引っ張って抜いてしまったり、ベッドから転倒してしまったりすることがあるのです。

それを防ぐため、手を使うことができないようにミトンをつけられることがあります。祖父もそのような安全面への配慮からミトンがつけられていました。結局私が祖父と面会したのは1度きりでしたが、祖父は、暗闇を彷徨うかのように混乱していて、私のこともよくわからないようでした。私は困った祖父の顔を見るのが辛く、その後病院に戻ることはできませんでした。

そして、その次に面会ができたのは、息を引き取ったあとの祖父でした。

 

私は今、10年以上の時を経て、老年医学を志す医師となり、いまだにこの経験を振り返ることがあります。祖父は死の直前、紛れもなく重度のフレイルの状態にありました。しかし、フレイルは完全ではないにせよ、予防ができるのです。
確かに脳梗塞までは防げなかったかもしれない。でも、もう少し何かできたのではないのだろうか。ベッドでミトンをつけられて、病院で混乱したまま息をひきとるのが本当に幸せだったのだろうか。もっと幸せな最期を迎えられなかったのだろうか。私に何かできたのではないだろうか。

 


思い返すたびに、後悔や反省、本当に様々な思いが私の心の中に広がります。そして改めて、この思いを誰かのために活かしたいと、フレイルとフレイル予防への思いを強くします。