元競泳日本代表の伊藤華英さんが今年3月に立ち上げた『1252プロジェクト』は、「女子アスリートと生理について」発信する情報発信プラットフォーム。
母体となる『一般社団法人 スポーツを止めるな』(以下『スポ止め』)は、学生アスリートの支援団体で、生理についても男女が一緒に学べる仕組みを構築中です。

『スポ止め』の共同代表理事を務める元ラグビー選手の最上絋太さんは、「生理の問題は、女性だけで声を上げても社会全体に届きにくい。だからこそ、男性や女性ということでなくみんなで一緒に取り組むことに意味がある」と語ります。

今回は、伊藤さんと最上さん、ミモレ編集部で、男女がともに生理を知り、学ぶことの大切さについてお届けします。

『1252プロジェクト』を発足させた伊藤華英さん。


男性指導者の頭の中に
「生理」の二文字はない


ミモレ編集部(以下「編集部」):前回のインタビューでは、伊藤さんの競泳選手時代の生理にまつわるご苦労を伺い、トップアスリートのレベルであっても生理の対策が個々の手探りであることに驚かされました。
社会の中で、生理がいかにタブー視されてきたか痛感します。


前回記事
オリンピック中に生理が...トップ選手がピル服用を後悔した理由【元競泳日本代表・伊藤華英さん】>>

ここ数年は、女性の生理について声を上げる方が徐々に増えてきていますが、『1252プロジェクト』のように男性が参画されるケースは珍しいのではないでしょうか?そこで、まずは最上さんにお伺いしたいのですが、なぜ『スポ止め』で生理の課題を扱おうと思われたのでしょうか?

『スポ止め』の共同代表の最上さん(一番左)と理事の伊藤さんは、スポーツ庁室伏長官とも意見交換。

最上さん(以下、敬称略):そもそも、『スポ止め』が目指しているのは学生アスリートの支援ですから、男も女もありません。そんななか、女子特有の問題があるのであれば、当然それは対策を講じていきたいと考えました。

スポーツの現場では男性の指導者が圧倒的に多い。
様々な場所でラグビーを指導してきましたが、ラグビーではほとんどの指導者が男性です。一方、女子ラグビーでは数十人が集まり、毎日誰かが生理である可能性が高い環境です。
僕自身も女の子の父親で、指導者にも関わらず、生理についてはわかっていませんでした。

あるラグビーコーチをしている友人は、試合前日に女子選手から「体調不良で休みたい」と連絡があった時、「何だよ……」と感じたと言っていました。
もしかしたら、その女子選手は生理痛で苦しんでいたかもしれません。
でも、友人に限らずほとんどの男性指導者は、「生理で休む」という発想自体が頭にないのです。

伊藤さん(以下、敬称略):女子選手と男性指導者の場合、そのコミュニケーションは大きな課題ですね。
仮に指導者側に生理の知識があっても、いきなり「生理はどうだ?」と切り出したらセクハラになりかねません。

また、選手側は本当は生理痛で休みたくても、「そんな理由で休むのは根性が足りないから」と思われたくないという不安があり、我慢してしまうケースが少なくないんですよ。

 

最上:選手と指導者の関係やコミュニケーションのとり方については、まだまだ多くの課題がある。ただ、生理に関しては男女間で意識の差がありすぎます。
プロジェクト名の「1252」は「多くの女性は1年間52週のうち、約12週が生理期間である」という意味なのですが、最初に聞いた時に僕自身、とても驚きました。
出血の有無だけが問題ではないとはいえ、1年のうち約3ヶ月間も経血と向き合っているなんて。
一方で多くの男性は、配偶者やパートナー、女の子の子供がいても、生理に関してまったくピンとこないのが現実でしょう。


生理について知ることを
性教育の出発点に


編集部:女性は周りに生理中だと気付かれないように、家庭でも学校でも会社でもコソコソしているのが現実なのに、いびつです。男性に生理の知識がなさすぎるのは、学校の性教育が足りていないこともありますよね。

最上:僕自身は中・高と男子校でしたが、生理について教わった記憶はほとんどありません。

編集部:保健の授業で性教育がありませんでしたか?

伊藤:公立学校の保健で行われる性教育は、教科書100ページ中の2ページくらいですよね。
特に生理に関しては、女子は特別授業があるかもしれませんが、男子はほとんど何も習わないのではないでしょうか。

最上:だからこそ、『スポ止め』の出番だと思っています。
もともと僕たちは学生の成長を応援したくて、そのための手段としてスポーツに打ち込むことを推奨しています。勝つために努力したり、挑戦したり、工夫したり……、そのプロセスが自立する際に役立つと考えているからです。

自立するためには、自分で判断し、行動することも肝心ですが、それには、まず正しい知識を持たなくてはなりません。
にも関わらず、生理に関しては、どこに正しい情報があるかすらわからない。

思春期に自分の身体について知るきっかけを提供することはとても大事だと思っているので、教育現場と連携して、我々がそこをサポートしていきたいのです。

編集部:ミモレでこれまで性教育について取材したなかでも、日本の学校の性教育は課題が山積みという印象があります。

伊藤:生理を学ぶことは、自分の身体を知ることでもあり、性教育の出発点だと思います。
たとえば、よく「男性は女性を大事にしよう」といわれますが、その理由を知るのも大事なこと。男性が女性に優しくすべきなのは、身体のつくりが異なるからですよね。

 

もちろん、基本的には、男女問わず誰もが大事に扱われるべき存在ですが、今の日本社会では、避妊法へのアクセスの悪さなども含め、性別による身体の違いが女性の機会損失に繋がっている感覚が否めません。
だからこそ、「女性を大切に」という言葉も生まれてくるのでしょう。

生理は女性の身体だけが持つ仕組みですが、本当は「女性だから」「男性だから」学ぶべきものではありません。
大事なのは、どちらも同じ人間ながら身体的な相違点があり、女性の方がそこから受ける影響が大きいという共通認識を持つこと。

男女がともに生きる社会で誰もが自分らしく生きていくためには、問題点を共有し、お互いを理解し合うことこそが重要なのです。

次ページ▶︎ 生理について、男性も発信していくべきタイミングに

【写真】オリンピックに生理が重なった実体験を持つ伊藤華英さん
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