前回までの連載では、加齢によって老化がなぜ起こるのか、老化で何が起こるのかについてみてきました。しかしもしかすると、読んでくださった皆様の気持ちを暗くしてしまったかもしれません。

 

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もちろん、老化が体に負の影響をもたらすことは認めなくてはいけません。だからこそ、そのスピードを落としたいことも確かでしょう。
しかし、実は歳を重ねることは必ずしも悪いことばかりではありません。歳を重ねたからこそ獲得できるものもたくさんあります。残念ながら、そのような加齢によるメリットというのは概して見過ごされがちです。ここでは、そんなメリットについて見ていきたいと思います。


40代、50代まで成長し続ける能力もある


老化というと「物忘れ」「認知症」などという言葉と関連が深く、脳の機能が衰退していくようなイメージと結びつきやすいかもしれません。40代、50代を迎えて、「歳のせいで物忘れがひどくなった」などと嘆く声も聞こえてきそうです。では、実際にはどうでしょうか。

米国のワシントン州で行われたシアトル縦断研究(参考文献1)と呼ばれる研究では、加齢とともに人の認知の機能がどう推移するのかを評価するため、約6000人にも上る人を1956年から観察し続けました。この研究では、7年おきにそれぞれの人の認知機能がどう変化したかが継続的に評価されました。

 

研究を報告した論文によれば、計算能力、言語記憶などの能力は、平均的に60歳頃まではあまり衰退は見られないものの、その後に衰退をはじめ、74歳頃までには全ての能力が衰退し始めることが観察されています。

しかし、さらに注意深くグラフを観察いただくと、計算能力などのように20代から一貫して低下してしまう能力もあるものの、空間認識や言語記憶、言語能力などは、20代の時よりもむしろ40〜50代の方が能力値の平均が高いことが見てとれます。もちろん、これが70や80歳まで維持されるのを見るのは難しいものの、人の脳の機能というのは40代や50代まで成長し続けうるということがお分かりいただけるのではないでしょうか。40歳で諦めるのは、まだ早いのです。

 
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