「なんでわかってくれないの?」「どうしてやってくれないの?」などと、配偶者や友人、職場の同僚に不満を抱いてしまうのはよくある話。でも、その相手が発達障害や脳梗塞の後遺症を持つ人だったとしたら? BE・LOVEで連載されていた「されど愛しきお妻様」は、大人の発達障害を抱える妻と、41歳の時に脳梗塞で倒れ、高次脳機能障害を背負ってしまった夫の18年間の物語です。

『されど愛しきお妻様 』 (BE・LOVEコミックス)

物語の主人公は、貧困層など社会的弱者を中心に取材し続けてきたルポライターの大介。フリーランスのルポライターとして活躍していた41歳の時、脳梗塞を発症します。

 

体の麻痺は少なく、歩くことはできるものの、今まで当たり前のようにできていたことができなくなったうえ、呂律が回らず、感情の制御ができなくなるなど、いくつかの高次機能障害(ケガや病気で脳に損傷を負うことによって起きる認知障害)が残ってしまいました。混乱した状態に陥っている大介を見た妻は、「やっとあたしの気持ちがわかったか」と一言。妻の千夏は発達障害で、小さい頃から不自由さや生きづらさを抱えていたのです。

 

二人の出会いは遡ること18年前。激務でブラック気味な編集プロダクションで、大介が社員として働いていたところ、千夏がアルバイトとして入ってきました。彼女はいつも騒がしくて破天荒で規格外。仕事は何度教えても間違えるし、お使いを頼むと違うものを買ってくるし、注意をするとふくれっ面。よく言えば裏表がなく、悪く言えば空気を読めない人でした。

 

ある日大介は、大粒の涙をこぼす千夏を見てしまいます。いつもは強気で自由気ままに振る舞う彼女とのギャップに気持ちを持っていかれてしまいました。家族とうまくいっておらず、家に帰りたくないという千夏を部屋に迎え入れたことから、二人は付き合うように。大介は、過去に付き合った女性にことごとく振り回されており、気を遣いすぎて恋愛に疲弊しきっていました。でも、千夏はそれらの女性と違って素直で、一緒にいて飽きることがなく、とても楽しいものでした。

 

運命のような出会いを果たして幸せを噛みしめる大介。ある日突然、千夏が実家から荷物を持ってきたことから同棲を開始します。しかし、暮らしを共にすることではじめて、千夏が朝全く起きられない、ひたすらゲームや漫画に熱中し、家事能力ゼロなどということがわかってきました。「今日は遅くなるからご飯だけ炊いておいて」といったことも忘れてゲームに没頭していることもあり、大介の小言はどんどん増えていきました。

 

でも、大介がいくら言っても千夏が変わることはありません。千夏は千夏で言われたことがちゃんとできず、どんどん自信を喪失し、ストレスを抱えていきます。とうとう胃痙攣で救急搬送されてしまう事態に。また、千夏の母親が過干渉で、小さい頃から「あなたは何もできないんだから」と千夏を否定し続けており、自己肯定感は下がっていく一方。「死にたい」とうつ状態に陥ることも少なくありませんでした。実は、千夏は発達障害だったのですが、そのことを知らない大介は、出会った頃はあんなにパワフルだったのに、どうして千夏の心が弱っていくかがわからずにいました。でも、千夏の魅力や良さを十分知っていた大介は彼女を支えていくことを決意します。

 

アルバイトをやめた千夏を自宅に一人残しておくことも不安だった大介は、これを機にライターとして独立を決意。取材や打ち合わせも二人でバイクに乗って行くようになり、千夏も少しずつ明るさを取り戻していきます。大介の取材テーマは「社会の裏側にいる困窮者たち」で、貧困と負の連鎖に苦しむ取材相手の話を聞いて、無力感にさいなまれることも少なくありませんでした。そんな中、天真爛漫な千夏に救われ、大介にとってますますなくてはならない存在になっていきます。

 

やがて二人は結婚するのですが、この先、さまざまな試練が二人を襲います。ずっと頭痛を抱えていた千夏が、実は脳腫瘍だったことが発覚して入院。無理を押して支えてきた大介が、今度は脳梗塞で緊急入院してしまう事態に。今まで一人で稼ぎ、千夏が家事などを全くしない分、家のことも全てを担ってきた大介。その無理がたたってか、今まで当たり前のようにできていたことができなくなり、感情のコントロールもできず、自分の人生は終わったと絶望します。でも、自分が不自由を抱えて初めて、「当たり前のことができない人」の辛さを実感しました。千夏のためを思って「ちゃんと掃除しよう」「朝起きよう」と言い続けてきたことは、自分の価値観の押し付けだったと気づきます。

 

千夏の苦しみやもどかしさに気づいた大介は、千夏を変えるのではなく自分を変え、お互いができることをやろうとしていきます。逆に、自分なりの方法で障害と折り合いをつけてきた千夏から教えてもらうこともありました。物語は、そんな二人の様子を丁寧に描いていきます。絵もとても繊細で、二人の喜怒哀楽の表情が豊かで、心に響きます。

自分のモノサシを振りかざして、相手を責めたり、否定したりするのではなく、何が原因なのかを考えて、どうすればいいか改善策を試してみる。だめだったら別の方法を模索してみる。時には辛いことや、やり場のない感情に振り回されることもありますが、大介と千夏は約20年かけてお互いが得意なこと、不得意なことを補い合い、幸せな日々を獲得していきます。二人の足跡は、自分が当たり前だと思っていることは、他人にとってはそうではないことに気づかせてくれ、相手に寄り添い、共に歩む大切さを教えてくれる物語です。

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『されど愛しきお妻様』
原作・鈴木大介、漫画・上田美和 講談社

「ピーチガールNEXT」上田美和、“夫婦の在り方”を描く新連載!
大人の発達障害だけどキュートな妻×41歳で脳梗塞で倒れた夫、愛と笑いと涙の20年間の実録。鈴木大介 『されど愛しきお妻様~「大人の発達障害」の妻と「脳が壊れた」僕の18年間~』公式コミカライズ!