コロナに振り回されつつ、気がつけばもう5月。気温があがってくると、乾いた喉を潤すために、冷たい飲み物をチョイスしがちではありませんか? でも、「心身の健やかさのためには、温かい飲み物のほうがオススメです」と伊藤要子先生。

伊藤先生は「ヒートショックプロテイン」研究の第一人者。ヒートショックプロテインとは、ストレスや加齢などで傷ついた体内の細胞を修復してくれる物資です。体を温めることで増やせます。体を温めることはヒートショックプロテインを増やし免疫力を高めるだけでなく、心を動かし、行動にもポジティブな変化を起こせるそうなのです。今回は体を温めるメリットについて伊藤先生にお伺いしました。

 

人は温かさを感じると温かい反応をする!


「温かい飲み物を持つと、相手のことを温かい人間だと感じるという面白い論文が、2008 年にアメリカのメジャーな学術誌『Science』 に掲載されています。

この論文では、身体的な温かさを感じると、目の前の人のことを優しい、穏やかな温かい人間だと感じるというふたつの実験結果を紹介しています。

ひとつは、ホットコーヒーとアイスコーヒーの温度差で人の評価がどう変わるかの実験。
41 人の大学生にホットコーヒーかアイスコーヒーのどちらかを手渡し、Aという人物の資料を読んだ後にAがどんな性格か10 項目の評価をしました。
結果はAへの評価は、温かいコーヒー群は『やさしい、穏やか』、冷たいコーヒー群は『やさしくはない、利己的』でした。物理的な温かさが人物評価によい影響を与えることが示されたのです。

ふたつ目の実験は、温度差が他人に対する行動を変えるか。
53人の大学生に治療用パッド(中にゲルが入っている)の製品評価を装って、温めたホットパッドか、冷やしたコールドパッドを渡しました。評価の後、報酬としてドリンクまたはアイスクリーム券を『自分用』か『友達用』の2つから選んでもらったのです。その結果、ホットパッドを渡された参加者の約54%が友達用を選び、コールドパッドでは約75%が自分用を選びました。物理的な温かさは、報酬の種類に関係なく、個人的な報酬より友人への(社会的報酬)を選択させたのです。

この二つの実験結果で、温かさは人の判断だけでなく、他人に対する行動にも影響を与えることが示されています。人は温度変化によって、優しくなったり、利己的になったり行動が変わる可能性が高いと言えます。今は貴重な機会となった対面でのミーティング時にこそ、すかさず温かい飲み物を準備して相手に飲んでもらいましょう。自分のことをやさしい良い人だと評価してもらえる可能性が高まり、自分自身も温かい飲み物を飲めば、相手を思いやる気持ちになれるでしょう」(伊藤先生)。
温かさが心を好意的に動かすスイッチになって、コミュニケーションが円滑になることが期待できます。

体が温まると気分が和らぐ


「前述した論文の著者は、身体のどこかの温度の変化を、脳のインスラ(島皮質)という部分がキャッチし、“温まる”という変化に対しては“気分が和らぐ”ように反応すると言っています。また、幼児期の母親からの温かい愛が、対人間関係における温かさと成人の行動の正常な発達に不可欠だとも述べています」(伊藤先生)。

インスラは脳の外側溝というミゾの奥にあり、感情と大きく関与していることは確かなようです。さまざまな研究で痛みの体験や喜怒哀楽や不快感、恐怖などの基礎的な感情の体験に重要な役割を持つことが示されています。
例えば、温かさ→温かい+優しい、痛い→痛み+嫌悪感  
を生み出しますが、インスラを働かないようにすると、温かさ→温かいのみ、痛い→痛みのみと感情への作用はおこりません。

「温かい飲み物でなくても、お風呂に入ってお湯に浸かるとホッとしますよね。あの瞬間は固まっていた心もほぐれていきます。体が外気温(20-30℃)から湯温(40-42℃)に浸り、温度変化を感受することにより、“インスラ”の反応で気分が和らぐのかもしれません。また、40-42℃の湯に浸かるとエンドルフィン(脳内麻薬)が分泌され、良い気分になったり、痛みが緩和したりすることが知られています。みなさんも、お風呂に入ると腰痛や筋肉痛が和らぐ経験があるはずです。世界中の人がお風呂に入り、優しい気持ちになったら、コロナ禍でも免疫力を高め、いがみ合いも許せる気持ちになるかもしれません。戦場にもお風呂タイム、災害の被災地にもまずはお風呂を設置しよう! 大げさかもしれませんが、入浴で体を温めることが平和をもたらす一助になるかも知れないと私は考えています」(伊藤先生)。
夏でも温かい飲み物、温かいお風呂、薄着ばかりしない、クーラーの効きすぎる部屋に長時間いないなど、体を温める意識を持てば、優しい心を忘れずにいられるかもしれません。

 
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