ある日の私の外来に、70代の女性Aさんが「腰が痛くて動けない」という症状で受診されました。詳しく聞いていくと以前から腰の痛みには悩まされ続けており、別の病院で湿布薬や飲み薬を出されたものの良くならず、MRI検査を行って「脊柱管狭窄症」の疑いがあると言われていたとのことでした。

 

脊柱管というのは背骨の中で足まで伸びる神経の通り道です。この通り道は骨や靭帯で囲まれていますが、骨の一部が変形してしまったり、靭帯が分厚くなってしまったりすることで、中を走っている神経を圧迫してしまい、背中や下半身に痛みを出すという病気です。飲み薬での治療に加えて、症状がひどくなれば手術を選択することもあります。
Aさんの場合には、まずは飲み薬を試してみましょうという方針になり、飲み薬が処方されていました。

 

また、自分で鍼治療にも行ってみたものの良くならなかったということでした。最近では腰の痛みが悪化して外出ができなくなり、買い物を家族に頼まなくてはいけなくなってしまったということで、何か解決策がないかと相談にいらっしゃいました。


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「脊柱管狭窄症」という病気があり、湿布薬、飲み薬、鍼治療を試して良くならず、動くのも辛いほどの腰痛が続いている。はじめに話を聞いた時には私の頭にも手術という言葉がよぎりました。しかし、必ずしも解決策はそう簡単に導かれるものではありません。

そこで、私は一通りの症状の経過を伺った上で、生活の様子についてさらに細かく伺っていくことにしました。「脊柱管狭窄症」という病名は、オーバーに診断がつけられる傾向があることを知っていたので、診断名にも少し疑いを持っていたのです。また、娘さんも一緒に来院されていたので、娘さんからみた生活上の気がかりな点なども聞いてみることにしました。

すると、料理が得意なAさんは、毎日台所に立って料理をするのを欠かさないということがわかりました。また、さらによく話を聞いてみると、調理台がとても低く、いつも腰を曲げて調理をしているということが分かりました。本人はあまりにもそれが習慣化していたために、それすら気がついていない様子でしたが、娘さんには少し気がかりだったようです。ただ、本人にも気をつかって話題にしたことはなかったということでした。
こうして実は、大好きな料理に夢中になっているうちに知らず知らずのうちに腰に負担をかけていたのです。

 
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