世の中には、放射能を過剰に怖がる人が一定数存在しています。筆者の大学の専攻は原子力工学なので、放射能や放射線に関する専門教育を受けましたが、極度に放射能を怖がっている人の話は、たいていの場合、科学の範囲を逸脱しています。しかしながら、放射線が危険であることは厳然とした事実ですから、怖がっている人の感情そのものを否定することはできません。

一部の人は、放射能を怖がる人に対して「無知だ」「安全なのにマスゴミに踊らされている」などとバッシングしているようですが、原子力を学んだ筆者の目には、声高に「安全」を主張する人たちも、極端に放射能を怖がっている人と同じように映ります。

欧米の反ワクチン派から標的にされているのは、途上国へのワクチン普及を支援しているビル・ゲイツ氏。「ワクチンを使ってマイクロチップを埋め込み、人々の活動をモニターしようとしている」といった陰謀論が展開され、各地でデモも行われている。写真:JessicaGirvan / Shutterstock.com

放射能にもワクチンにも一定のリスクがありますから、それを理解した上で、どの程度まで許容できるのかを考えることが本当の科学であり、「安全である」と暴力的に他人に価値観を押しつけることが科学ではありません。

 

人間は未知の事象に不安を感じるものであり、それを解消するために科学は存在します。ワクチンや放射能を極度に恐れる人が一定数存在するのは当然のことであり、こうした人たちに対しては、ゆっくりと丁寧に科学的な説明を繰り返し、納得してもらうよりほかに方法はありません。

ちなみに先ほどのワクチンに関するトンデモ論の中には、接種すると携帯電話の5Gにつながってしまうというものまであるそうです。荒唐無稽な話ではありますが、5Gとワクチンが結びついてしまうことには理由があります。それは5Gの電波は危険であるという指摘が一部から出ており、深層心理としてこれが一部の人にとって不安材料となっているからです。

5Gの電波についても、ワクチンや放射能とまったく同じ出来事が発生しており、極端に電波を怖がる人に対してバッシングが行われているようです。筆者は職業柄、当然のことながらIT機器を愛用していますし、5Gも積極的に利用すべきだとの立場ですが、5Gで使われるのは高周波の電磁波ですから、物理学の理論上、人体に対して何らかの影響を及ぼしても不思議ではありません。

今のところ健康被害は観察されていませんから、科学に従うとすれば、過剰に怖がらず、一方で慎重に利用すればよいという結論になるでしょう。直接、健康被害が観察されないからといって、わざわざ長時間、積極的に電波を浴びる必要はありません。寝るときはスイッチを切る、近くには置かないといった慎重さがあっても良いのではないかと思います。
 


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