このように、体を動かさない生活をしていると、人が1年間かけて失っていく筋肉量をものの数日で失うことができてしまいます。逆に言えば、日頃から体を動かすことは、筋肉の老化を防ぐためにそれほど大切だということがわかります。


使わないと筋肉の老化は加速する

 

使わないことで起こる筋肉の萎縮は、医学用語では「廃用性筋萎縮」と呼ばれています。この廃用性筋萎縮は予防ができるにもかかわらず、非常に多くの人を寝たきりに至らせている、高齢化社会を迎える日本において見過ごせない大きな課題の一つです。

 

ただし、これは必ずしも「体を動かさない生活を選択すること」が原因というわけでもありません。歳とともに、病気によって体を動かしたくても動かせないという事情が出てくることもあります。例えば、肺炎や心不全といった病気で入院となり、体を休めなければいけないといった状況が繰り返されることで発症してしまうこともあるのです。

結果として、この廃用性筋萎縮は少しずつ蓄積し、筋力が弱っていくにつれて加速度的に進行していくことになります。加齢とともに、筋力の回復が遅くなるため、一度進んだ廃用をなかなか取り戻せなくなるのです。そうなると、ますます動けなくなり、筋肉の萎縮が進むという悪循環に陥ります。こうして、たった一回の入院が大きな筋力低下を招くことすらあります。

日頃から体を動かすこと、そして予防できる病気は未然に予防し、不要な入院を避けること、そうした取り組みが筋肉の老化を避けるための鍵になるということがお分かりいただけたのではないでしょうか。
 

参考文献
1     Mitchell WK, Williams J, Atherton P, Larvin M, Lund J, Narici M. Sarcopenia, dynapenia, and the impact of advancing age on human skeletal muscle size and strength; a quantitative review. Front Physiol Front Physiol; 2012; 3: 260. 
2     Kortebein P, Ferrando A, Lombeida J, Wolfe R, Evans WJ. Effect of 10 days of bed rest on skeletal muscle in healthy older adults [8]. Journal of the American Medical Association. JAMA; 2007. p. 1772–4. 
3     Wall BT, Dirks ML, van Loon LJC. Skeletal muscle atrophy during short-term disuse: implications for age-related sarcopenia. Ageing Res Rev Ageing Res Rev; 2013; 12: 898–906. 

写真/shutterstock

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