フリーアナウンサー馬場典子による「言葉」にまつわるコラム連載がスタート!
知っておくと便利な言葉、使い方に気をつけたい言葉など、気持ちが伝わる“言葉づかい”のヒントをお届けします。

 


ミモレ読者の皆さま、はじめまして。

フリーアナウンサーの馬場典子です。

40歳の節目に日テレを退社して7年。若い頃には全く感じなかった気圧の変化に翻弄されたり、首に刻まれたシワを撫でてみたり、スマホの文字を大きくするかリーディンググラスを掛けるかで気持ちが揺れ動いたり……そんな日々を過ごすアラフィフです。

社会人になってまもなく25年が経とうとしていますが、この間、様々な言葉と出会い、励まされてきました。拙著『ことたま』というエッセー本に書いた今でも大好きな話をご挨拶代わりにお届けします。


自然の恵みが神様そのもの


小学校1年生の理科のテストで「雪が溶けたら何になる」という問題を見た後輩ディレクター。理科ですから、答えは「水になる」。ですが、彼はバッテンをもらってしまいました。
 その答えは……

「春になる」

自然豊かな環境で育った後輩くん。なんて瑞々しい感性でしょう。彼のお母様はさすがで、我が子を褒めてあげたのだとか。

 

伊勢神宮をお参りしたときに伺った、印象深いお話ともつながります。
本来信仰とは、自然の恵みや脅威など、目に見えないものも大切にする心を指すのだそうです。日本人の心も生活も、自然と深く結びついているのですね。

実は、おもてなしの精神や相手を思いやる心も元々、農業や漁業など生活の安定を祈り、自然界の八百万の神さまに喜んでもらえるものを、と考えた末に、その年採れた(獲れた)最高のものをお供えしたことが始まりなのだそうです。

手水舎の先、五十鈴川の川辺にて

天照大神の岩戸伝説(※編集部註:天照大神が天の岩戸にお隠れになったところ、世の中が真っ暗闇になり禍が次々起こったという伝説)は、皆既日食だろうとも言われていますが、作物を育て人に活力を与えてくれる太陽が、いきなり消えて世界が闇に包まれてしまったのだから、古の人々はどれほど恐れ慄いたことでしょう。八岐大蛇は河川の氾濫を表しているという説もありますが、そんなお話からも、自然の恵みが神様そのもの、との思いが伝わってきます。


言葉に宿る魂、相手を思いやる気持ち


言葉に魂が宿るという言霊信仰も、梨を有りの実と呼んでみたり、年賀状では「去る」を連想する「去年」ではなく「昨年」と書いたり、冠婚葬祭での忌み言葉など、私たちの日常に根付いています。

そして日本古来の大和言葉は音の響きそのものに意味があると言われているので、私も、たとえば心を亡くすと書く「忙しい」という言葉は使わないようにしています。「時間に追われておりまして……」などと言い換えながら。

ご挨拶といえば、「こんにちは」も、「今日は(いいお天気ですね)」「今日は(ご機嫌いかがですか)」という、自然を愛でたり相手を思いやったりする言葉ですし、「おはようございます」も「お早いお着きでございますね」という労いの言葉が始まりだとか。

「行ってらっしゃい」「行ってきます」という言葉に、「行って(無事に帰ってい)らっしゃい」「行って(無事に帰って)きます」という祈りが込められていると聞いた時は、胸が震えました。

言葉は祈りそのもの。相手を思いやる気持ちそのもの。言葉に誠実にありたい、言葉を大切に届けたい、と思っています。


馬場典子のフォトギャラリー
▼横にスワイプしてください▼