もし皆さんの大切な家族が病気で余命宣告を受け、病院ではなく「自宅で死にたい」と切望したらどうしますか? それでも医師の勧めにしたがって病院へ入院させますか? もしくは、金銭面や体力面での負担を覚悟の上で本人の主張を受け入れますか?

いずれにしても苦渋の決断だと思いますが、じつのところ現在はそこまで力まずとも「在宅死」を選ぶことができるそうです。

在宅医療専門医である中村明澄さんの著書『「在宅死」という選択~納得できる最期のために』には、いくつかの事例と共に、本人および家族の心構え、サポート体制からうるさ型の親戚との対峙法まで、在宅死にまつわるさまざまな情報が書きつづられています。

おそらく読者の皆さんの中には、年老いた親をどう看取るかに心を砕いてらっしゃる方も多いのではないでしょうか? でも、案ずるより産むが易しとはよく言ったもので、親御さんが「在宅死」を希望したとても、実例に基づく具体的な情報が満載の本書を読んでおけば必要以上に恐れることはないでしょう。今回はその一部をご紹介したいと思います。

 


自分の望む場所で、穏やかな自分らしい死を選ぶことが可能な時代


どんな生き方をするかに選択肢があるように、死に方にも選択肢があっていいはずだと思います。病院の医師たちの多くは、「もう治療できません」と宣言するのが苦手です。そのため終末期の患者さんに対しても、延命治療を優先しようとする傾向がまだあります。そうしないと患者さんやご家族も、「見放された」と勘違いしてしまうことがあるからです。しかし、死と無縁でいられる人は誰もいません。わたしたちはみな、いつかは死を迎えます。そして、その死がいつやって来るかわからないのも同じです。

 

だったら、できるかぎり自分らしい死に方を選べたほうがいいと思いませんか――。 

病院の医師が自ら、死期が迫る患者に対して退院を提案することは稀でしょう。ただ、患者本人が「治らないなら、もう帰りたい」と声をあげさえすれば、OKを出してくれると思います。ですから必ず、自分がどんな最期を望んでいるのかを誰かに伝えてほしいのです。

わたしが研修医をしていた20年前には、死に場所や死に方を選ぶことはなかなか叶わない看取りの現実がありました。けれども今は十分な選択肢があります。自分の望む場所で、穏やかな自分らしい死を選ぶことが可能な時代なのです。
 

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参考:がん終末期は在宅医療が勧められることも。状態別「亡くなるまでの経過」
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「がんの終末期では、通院がまだ難しくない状態でも、主治医から在宅医療の話が出ることがあります。これは、がんの病気の特性上、急に状態が変化する可能性があるためです」(本書より)

<出典>Lynn J. Serving patients who may die soon and their families. JAMA. 2001; 285: 925-32