息子+大きな子供(夫)の面倒も見なくちゃいけない


菅野:子育て中の母親にだって、働く夫を労いたい気持ちはあると思うんですよね。だからこそ「頼むのは申し訳ない」っていう思考回路になってしまうんだと思うんです。でもそうやって一人で全部やっていると、母親が休める日はなくなっちゃいますよね。身体がだるい、フラフラする、これ風邪引く手前だ……っていう時とか、いっそ熱が出てくれたら堂々と休めるのに……って。だから、ゆっくり休むためのいいアイデアがあるとすれば、病気のフリをすることです!

尾野:それいいアイデアなんですか(笑)。

菅野:やっぱり母親って「ちゃんとやらなきゃ」って思っちゃうところがあると思うんですよね。とくに加奈さんなんかそうでしたよね。「できる限りのことを精一杯やらないといけない」というタイプだし、周りから「お父さんいなくて大変でしょ?」って言われるのもイヤだろうし。

 


高畑:加奈にも辛辣なところはあるんです。「息子にできることはなんでもしてあげるつもり。我慢ばっかりさせてると、私みたいに何の自信もない人間になっちゃう」っていうセリフがあるじゃないですか。あれを自分の母親に言うなんて、結構辛辣だな、って。頑張ってはいると思うんですけどね。頼るのが下手な人だから、それが未熟さでもあるんだけど。

菅野:「頼ること」って、自分も相手を信頼し、相手も自分を信頼していないとできない。「人に頼るより自分でやったほうが早い」と思ってしまうこともあるし、「頼ったら何か返さないといけない」とも思うし。

尾野:母親役を演じるたびに「お母さんって大変」って思います。お父さんも大変なんでしょうけど、やっぱり自分の身体から生まれた存在に対して、背負ってしまうものが違うんだなって。今回の話で言えば、子供の上に、さらにまったく他人の「大きな子供=夫」がいて、全然大黒柱になっていてくれてない。なんか「夫がダメ男」って話って多いですよね。

菅野:留美子の家庭がそうですけど、カメラマンである夫は好きなように生きていて、場合によっては「カッコいい」みたいに扱われていたりする。でも妻が仕事も自分のことも好きなように生きていると「欲張り!」って言われちゃうんですよね。

尾野:確かに。女の人が好きなように生きる話も、作ってもらいたいですよね。

 


お母さんにも自分のための選択があっていい


高畑:私は結婚したことないし、いつかはとは思いますが、一生同じ人と一緒にいるのってすごいことだなとは思うんです。変わっていくのが人間だし、それを互いに受け入れて何十年も……っていうのは。もちろんそれが理想だけど、そうはできないこともある。むしろそういう考えの方が人間らしいのかなと、今回の映画で思いました。

(C)2021「明日の食卓」製作委員会

高畑:子供からしたら「離婚なんて、そんな勝手な」って思うだろうけれど。

尾野:母親ではあるけれど、自分のための選択もあっていいというか。

菅野:子供としては「僕たちが大事なら離婚しないでしょ?」っていう。ただ子供には子供の人生があるように、お母さんにも人生がある、それを大事にしたい気持ちは理解してほしいですよね。

高畑:留美子さんが子供にそれを伝える場面がありましたよね、あそこすごく好きでした。

菅野:子供の目を見てきちんと説明すれば、理解はできなくても伝わることはあるのかなと、あの場面を演じながら考えていました。