「やばいヒロイン」優里の
ひたむきさと危なっかしさ


幽霊つながり、というわけでもないけれど『青野くんに触りたいから死にたい』(椎名うみ・講談社)も大好きで、ここ数年「『青野くんに触りたいから死にたい』を見届けたいから死ねない」と結構真剣に思っている。

高校生の優里は隣のクラスの青野くんに告白し、OKをもらったわずか三ページ後(作中の時間経過は二週間)に青野くんの訃報を告げられる。大人しく控えめな反面で思い込みの激しい優里が彼の後を追おうと試みた時、幽霊になった青野くんが現れ「君の側にずっといるから」と約束する。

 

触れない、優里にしか見えない青野くんとの恋愛には不自由がつきものだが、優里は幸せだった。「青野くんって憑依とかできたりしないのかな……」と、思いつきを口にするまでは。陰がありつつ優しい少年だった青野くんが「この世ならざる者」としての側面を徐々に覗かせ始め、優里と読者をじわじわダークゾーンに引き込んでいく。言っとくけど、マジで怖い。花が咲きこぼれる路上、ストッキングに包まれた足だけが覗く描写にこれほど戦慄させられるなんて思わなかった。でも、「怖いんならやめとこうかな」なんて回避しないでほしい。それ以上に、マジでマジで面白いから。

物語は青野くんの友人・藤本や不登校のオカルトマニア・美桜をも巻き込んで、闇と謎を深めていく。彼岸と此岸のあわいで優里は必死に青野くんの精神を繋ぎ止めようとする。優里も青野くんも互いを好きで、互いに幸せになってほしいと願っている。生者と死者という一線を、決して越えられないことを何度も思い知らされながら。

初期の優里は、はっきり言ってかなりやばい。青野くんをあっさり好きになり、ろくに知らないまま告白し、彼が死んでしまうと「簡単なことだった……!」と自死を試みる。「恋愛体質」とはまた違うベクトルでの危なっかしさの理由は、優里の生い立ちが明かされる中で見えてくるのだが、そんな「やばいヒロイン」が、青野くんとの関わりの中でどんどん強く成長していく。直情で無防備、ゆえに何度も傷つきながら、それでも優里はひたむきに追及する。

人を愛するとは、相手を思いやるとは、自分を大切にするとは、どういうことなのか。愛情は時にひとりよがりで「あなたのためなら傷ついてもいい」という無私の決断が、必ずしも「あなた」を喜ばせるとは限らない。それは「あなた」の世界にいる「わたし」を殺してしまうことだから。優里はその難しさから逃げず、作者の椎名さんは、そんな優里の姿をド直球で描いて逃げない。かわいい絵柄とは裏腹に、痺れるほど剛腕の表現者だ。豪速球のストレートは巻を追うごとに威力を増し、読み手も心してミットを構えておく必要がある。

「君は世界で一番かっこいいよ」と青野くんは優里に語りかける。わたしもそう思う。
 

最後に、男性主人公の作品を。『往生際の意味を知れ!』(米代恭・小学館)は、七年もの間元カノ・日和をこじらせ続け、合コンで「元カノと結婚したいです」と公言する男・市松の物語。