誰かが得すると自分の脳は損したと思う
人はどうして、こういう状況のもとでイライラしてしまうのでしょうか。これまでに説明してきたことのおさらいになりますが、これは、「誰かが10万円もらえた、ということを、自分の脳は10万円損したように感じている」からです。
もちろん、経済が回らなければ、国民全体が疲弊し、回りまわって苦しむのは私もみなさんもひっくるめた国民自身です。であるにもかかわらず、特定の誰かが得をするように見える、と、それは「救済」ではなく「損をさせられたという気持ちをバラまく行為」になってしまうのです。
Go To トラベルやGo To イート、Go To イベントなどのニュースが流れるたびに、自分が救済されない側であり、損をさせられている、という気持ちを煽られてしまうというわけです。
コロナ禍で大変だね、少しでも援助があってよかったね、頑張って、という気持ちになることができればよいのですが、毎日のように自分が損をしている気分になる情報をバラまかれて、なぜあいつらだけ得をするのだ、という気持ちを抑えられず、得をしている人を責めずにはいられなくなってしまう人が大半ではないでしょうか。そして、得をさせている人を責める気持ちも同時に、高まってしまう。これでは本当に誰も得をしないし、心が折れてしまう人も多いのではないかと思います。
救済する側も苦しいところでしょう。民衆に元気を配っているつもりのことでも、責められてしまう。一方、責めるほうは、あなた方は、救済措置の対象外です、と日々告知されているようなものです。残念ながら、人々の目には、配られているものは「絶望」と映ってしまっている可能性が高いのです。自分は対象にはならないうえに、どこにも助けを求めることができないと。この問題に対処するには、工夫が必要です。よかれと思ってやったことが、想定外のヘイトを集めてしまうことになりかねません。
残酷な現実を前にしたとき、薄っぺらい夢や安っぽい希望を語ることは、無駄どころか逆効果です。
人々が求めているものは、ごくシンプルな幸せです。人々が満足するのは、自分も得をした、と実感できる何かを得られたときです。そのときようやく、人々は他人を攻撃することをやめ、穏やかな心で誰かの不幸をともに嘆き、誰かの幸せを心から喜ぶことができるのです。
『生贄探し 暴走する脳』
著者:中野信子、ヤマザキマリ 講談社 968円(税込)
「日本人は真面目で礼儀正しい」とよく言われますが、コロナ禍ではそんな褒め言葉とは真逆の行動が数多く見られました。むき出しになった正義中毒に誰もが「他人の目が怖くて」自粛。巣ごもりで毒親に悩むケースも目立ちました。「あの人だけ、いい思いをするなんて許せない!」──じつはこうした負の感情が連鎖しやすい傾向こそ、日本人の脳の特徴だったのです。
脳科学者の中野信子さんと、時代も国も越えた体験を描く漫画家・随筆家のヤマザキマリさんが鋭く分析。パンデミックの経験を無駄にせず、心豊かに生きる方法が得られます。
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