1点や2点をあげつらう教育は不要
勉強は“学習の盲点”を見つけ出すこと


個々の興味を伸ばし、主体性を培い、討論や議論にも臆しない。そんな子どもたちを育てる奇跡のような学園の支柱となったのは、7つの学校を渡り歩いた末に独習で素晴らしい成績を出し続けた我が子、オードリー・タンに約束した李さんのある言葉なのかもしれません。

「もし、もしもいつか学校を創立できたら、その学校は子どもたち自身が学習について決定できる学校に必ずします」

今回紹介した種子学園のしくみ、そして個性的な取り組みはほんのごく一部。現在、李さんは学園長の座を退いていますが、学園の改革は今なお継続中です。私たち日本人が種子学園に通うことは容易ではありませんが、次の言葉には日本の家庭教育でも役立つヒントが詰まっているのではないでしょうか。

「どうして普通小学校の教育では、子どもの答えが間違っていると責めてしまうのか? 本当に心が痛む。種子学園の教師と子どもにとっては、いかなる試験の目的も学習の盲点を見つけ出し、教師と子どもで協力してそれに向き合う、ただそれだけのことに過ぎない。

『私たちには人為的脅しに満ちた学習環境は必要ない』。これは種子学園創立の信念の1つだ。先生や大人は教育に際して、自然にもたらされる結果のほか、そのほかの罰則は絶対に与えることはない。ましてや1点や2点くらいの点数をあげつらうなどあり得ないことだ。このような教育では、学習の焦点が定まらなかったり、不必要な心の歪みや傷を子どもに負わせたりすることもないはずだ」
 


訳者プロフィール
ワン・チャイ(訳):復旦大学などでの漢語研修を経て、博士号を取得。その後、北京大学に入職し、研究員として勤めるなど20数年間、中国に滞在。帰国後、会社役員などを務め、現在は、フリーランスの翻訳などに従事。2006年、HSK(漢語水平考試)高等A級(11級)合格(最高級)。研究論文50数本、単著2冊(中国語)、翻訳書5冊がある。星雲賞海外長編部門を受賞した『三体』(早川書房)三部作のうち第一部と第三部の翻訳を担当。

 

『子どもの才能を引き出す 天才IT相オードリー・タンを育てた母の教育メソッド』
著者:李 雅卿(リー・ヤーチン) 訳:ワン・チャイ
日本実業出版社 1870円(税込)

台湾史上最年少の35歳で入閣を果たした、IT大臣のオードリー・タン氏。世界でも珍しいトランスジェンダーの閣僚として、さらにIQ180以上の頭脳を持つ天才として、世界中から熱視線が送られる人物のひとりです。オードリー・タン氏のユニークな個性を伸ばすため、家庭学習に寄り添い、そして苦悩してきたのが母の李雅卿さん。李さんは我が子の育児を経たからこそ得られた「教育に本当に必要なこと」を元に、台湾で新たな学園を設立し、教育者としてさまざまな取り組みを行なっていきます。子どもたちが「生きるため」に必要な学びとはなにかを知ることができる一冊です。


構成/金澤英恵

 


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