オリジナル曲ではなく、童謡でなければいけない理由


CD『ののちゃん 2さい こどもうた』には、「いぬのおまわりさん」はもちろん、「ぞうさん」「おもちゃのチャチャチャ」「ねこふんじゃった」など、だれもが知っている童謡が収録されています。そこには渡辺さんの強いこだわりがありました。

「オリジナル曲を作らず、童謡のアルバムにすることには、社内で疑問の声もありました。
でも私は、小さな子どもにとって歌は生活の一部なので、ののちゃんの日常を覗いているような童謡や遊び歌で構成したかった。
飾らない等身大の歌唱こそが、2歳の彼女の魅力を最大限に伝えるものだと考えたからです。
また童謡は、誰もが幼い頃に通ってきた普遍の音楽。ののちゃんの歌を通じて、幅広い世代の方が、『小さい頃歌っていたな』とか『子育て中によく歌ったな』などと、自分の記憶を思い起こしながら聴いてくださるといいなと思いました」

 


本格的な録音に入る前に、テスト録音を実施。


「私もその時にののちゃんと『はじめまして』だったので、知らない人の前で歌ってくれるかな? という不安はありました。
けれども、そんな心配をよそに、ののちゃんは『こんにちはー! むらかたののかです!』と元気よく挨拶してくれて、スタジオに入ると自分でマイクの前に立ちました。
そして音楽がかかり始めるとYouTube「とんとんとんとん ひげじいさん」でもご覧いただけるあの笑顔!
歌い終わっても『もっと歌うよ!』と次々に楽しそうに歌ってくれて。
そんな姿を見ながら『ああ、この子は歌うために生まれて来たんだなあ』と思いました」

 


世界に類を見ない“奇跡の録音”


「レコーディングは、ののちゃんが無理なく歌えるように午前中1~2時間だけの短時間集中で行いました。テスト録音も含めトータル5日間、約10時間のアルバム制作でした。
子どもは一度ピークを過ぎると大人のように気持ちを戻せません。最小限のテイク数で、一瞬の輝きを録りこぼすことのないように私たちスタッフも気をつけました。

普段はヘッドフォンでカラオケを聴きながら歌の録音をするのですが、ののちゃんの場合は、ヘッドフォンを使うことに違和感があったようで、『頭がきつい』と言われてしまいました。ですので、本番でヘッドフォンは使いませんでした。

代表曲の「いぬのおまわりさん」は、歌の表現によってテンポも揺れるので、カラオケを使った録音ができません。
そこで考えたのが、ののちゃんの歌と伴奏を一発で録音する“同録”です 。
同録はその場の誰か一人でもミスをすればやり直しになってしまうため、演奏の技術やチームワークが大切です。
2歳のののちゃんにそれを試みるのはかなりリスキーでしたが、最初の録音で想像以上の集中力を発揮してくれたので、『同録で行けるかもしれない』と思い計画を立てました。
当日は、プロの演奏者に囲まれて、ののちゃんがマイクの前にスタンバイし、指揮者の合図にあわせて一斉に録音。
2歳の子どもが、その日会ったばかりの大人のミュージシャンたちと一発録りで歌うなんて、世界でも類を見ない光景です。
大人は手に汗を握るほど緊張しましたが、ののちゃんは素晴らしいパフォーマンスで応えてくれました。
ほんとうに、奇跡のような録音でした」