成功にとって最も必要なこととは?

 

結婚して二児の父親になった永松さんは、世間一般の親と同じくついつい「勉強しろ」と言ってしまう教育パパになっていました。そんなある日、中学校に入って勉強しなくなった長男・亨太郎くんに手を焼いていた永松さんを、たつみさんはこうたしなめます。

 

「勉強ができることって素敵なことよね。でもね、スポーツができたり、料理ができたり、人に親切にできたりってすごい才能だと思うのよ。特に社会に出たら、喜ばれる人から順に成功するじゃない? あの子のその才能を伸ばしたほうがいい気がするの」

あまりにも核心を突いた意見に、永松さんはぐうの音も出なくなってしまいます。その後たつみさんは、たたみかけるように永松さんが忘れかけていた「子どもを信じる」という姿勢を示すのでした。

「でね、亨太郎が私に言うのよ。『ばあちゃん、俺は頭バカだから』って。でもね、亨太郎に言ってやったの。『自分で自分のことをバカ』だと思ってる人間に本当のバカはいない。バカってのは『自分はなんでも知っている』って勘違いしてる人のほうなのよ、って。亨太郎がそんな人にならなくてよかった。私安心した」

地位や名誉、財力に惑わされることなく、人間が一番大事にしなければいけないものを見抜いていたたつみさん。彼女は、経営者として成功し、セミナーや本の執筆に忙殺される中で足元が見えなくなっていた永松さんにとって、その都度軌道修正してくれるありがたい存在でした。

「あのね、社長とか著者とか有名人とかなんでもいいけど、そういう人って地位とか勲章とか影響力とかを持ってるよね。今のあんたは全部それを持ってるかもしれない。でもね、その力って決してあんたをいい気分にさせるためだったり、あんたをいばらせるためのものじゃないんだよ。その力を使ってまわりの人に喜ばれる人になりなさい、って神様がくれたものなんだよ。そのことを忘れて、ちょっとうまくいったらいばりはじめたり人を見下したりすると、神様は遠慮なくその人からその地位も勲章も取り上げるんだよ」

ちょうど「頂点を目指す人」向け書籍の執筆を考えていた永松さんは、たつみさんから痛烈な洗礼を受けます。その言葉は仕事がすべて手につかなくなるくらい永松さんの心に突き刺さりました。

「上に登るのはいいことだよ。でもね、ふつうの人は、私みたいに愚痴も言うし、不安もあるし、なかなか変われない。そんなところでぐるぐる回ってるんだよ。悩んでるんだよ。あんたは本を書きはじめた最初の頃、『自分の経験を通して、悩んでいる人の心を少しでも明るくしたい』って言ってたよね。あの頃のあんたはどこにいったの? 上に行きたい人たちだけと歩けばいいの? 悩んでいる人のことはもういいの? あんたは気づかないうちに、多くの読者の気持ちがわからなくなってるよ」