子育てに必要な本当の効率の良さって?
 

これもドラマの第2話で、重なるシーンがありました。シンガーソングライターを目指しているめいくは、自分の息子・大地を「にじや」に置き去りにして、一人で路上ライブをしに行ってしまいます。このとき蒼介や俊平は必死でめいくのゆくえを探し、大地も「ママと一緒に食べる」と頑なに夜ご飯を食べようとしませんでした。……でも単純にこの部分だけ考えると、とっても非効率だと思うのです。大地のまわりには蒼介と俊平、礼、さらには「にじや」の店主と、4人もの大人がいます。だから何ら危険はありません。なのに子のそばにいるのは母親であるべき、という概念に捉われ、大地は食事を摂る時間が遅くなり、生活リズムも乱れてしまっています。しかしここで“共同体の中の誰かが見ればいい”という考え方のほうが普通になっていれば、めいくは安心して夢を追いかけ、大地も安全で健康的な生活を送れる。ましてや、無駄に「ママに放って置かれた」というネガティブ感情を抱くこともなかった気がするのです。

 


一夫一婦制は現代にはマッチしていない⁉︎
 

一夫一婦制の元で自分の子供だけを育てるというシステムは、人類が土地を所有するようになった頃から生まれてきたものだと、番組は述べていました。そのベースにあるのは、土地を守るために「よそ者を入れない」という発想だそう。しかし俊平や礼もそうですが、現代社会において、血がつながらないものを排除してまで守りたい所有物がある人は、どれほどいるのでしょう? それよりも、旧来の家族のカタチにこだわって他者を寄せ付けないほうが、デメリットが多くなっているのが現実な気がします。

こうして見ると、『#家族募集します』は新しい家族のカタチを見せているようで、実は共同体という原点回帰を提案している気もしました。ただ、かつては自分がたまたま生まれた共同体内でしかサポートを得ることができませんでしたが、今はSNSという、不特定多数が繋がれるツールがある。よりお互いのニーズが合う者同士が集まれるという点においては、ある意味、昔よりも共同体作りに適した環境になっているとも言えます。#子育ての協力者を求めている人募集します、#子育てに協力したい人募集します、#独身同士、支え合いたい人募集します……。まさに“マッチング家族”の時代が来ている、と言ってもいいかもしれません。

大ヒット中の親書『なんで家族を続けるの?』で脳科学者の中野信子さんは、脳科学的には家族における母親と父親の役割はない、ときっぱり言い切っています。さらに日本での離婚率はすでに3割を超えており、かつ、2040年には日本のほぼ半数の人がそもそも結婚を選択すらしなくなるという試算が出ている、とも書かれていました。そんな時代に、モノガミーベースの子育てや家族にこだわる意味は、もはや見つけにくくなっているのではないでしょうか。

結婚する人もしない人も、子供がいる人もいない人も当たり前にいる……。このドラマはライトなエンタメ家族ものとして作られていますが、そんな多様な時代を目前にした私たちに、実は非常に現実的で合理的な提案もしている気がしたのです。だから「ドラマの話よね」と片付けてしまわず、「これ、意外とありかも……。自分だったらどんな共同体がいいだろう……」なんて考えながら見てみるのも、また面白いのではないかと思った次第です。
 

文/山本奈緒子
構成/藤本容子
 


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