――子どもの「マネー教育」について頭を悩ませている親もたくさんいます。藤野さんは、どのように考えていらっしゃいますか?

 

藤野:よく「投資をさせましょう」という話が出ますよね? もちろん「投資体験」は非常に大切だと思いますが、「投資体験」の前に「勤労体験」がないと、ただのマネーゲームとして終わってしまうと思っています。
ですので、勤労体験をしないまま、投資体験をするということには、若干ネガティブな立場です。

会社の成り立ちや、働くことを体得してから、そういう大切な会社が発行している株式というものを、どうやって売買という形で向き合うのか、という流れで考えていくことが大事だと思うからです。

 

――おっしゃるとおり、株価の上下によって「増えた」「減った」と、ゲームのようにお金を捉えてしまっては、あまりよくないと感じます。

藤野:そうなんですよね。実際に「勤労体験」をすると、みんなで協力して成し遂げることもあれば、サボる人もいたり……そういうことを含め、「働く」という全体像を体験することがすごく大事です。

例えば、「起業体験」をさせてみると、頭のいい子はなんでもできるけれど、人によっては事業計画を立てることはできても、売り場でまったく役に立たない子もいたり、資本の話をしているときは居眠りしていた子が、売り場に立つとガンガン売るようなケースもよくあります。

つまり、人によって得意不得意があって、それが組み合わせて「カンパニー」ができあがっている。カンパニーとは、英語で「仲間」という意味ですよね。そういうことを体験して、頭で理解していくことで、「それなら、どのカンパニーに投資しようかな」と考えるようになります。

会社の評価が、立体的になってくるわけです。

会社を立体的に判断できる人のほうが、長期的なリターンが高くなります。さらに、株式投資がビジネスに役立ったり、人生に役立ったりと、いい効果が生まれていくのです。

――投資をしている家庭を見て、「わが子も経験した方がいいのかしら?」と思う親もいますが、社会の仕組みを子どもにしっかり伝えることの方が、先ですね。

藤野:はい。ちなみに当社でも、「高校生模擬企業グランプリ(リアビズ)」の運営をサポートしています。
全国の高校生のファイナンシャル・リテラシー(金融知力)向上を目的としていて、高校生3~10人でチームをつくって、考えた商品を実際にネットショップで販売する会社を運営するリアルビジネス体験プログラムです。

これはものすごく意味があることだと思っています。「働くことと、お金の教育がくっついていること」が大切だからです。
会社という形でコミュニケーションをして、プロジェクトを立ち上げ、みんなで協力してビジネス展開をして、お金を稼いで、みんなに分配するという仕組みです。これを若いときにやっておくと、会社の成り立ちもわかりますし、会社の楽しさもわかります。

お金の大切さをわざわざ大人が言わなくても、伝えられるんです。
「お金を大切にしよう」という言葉よりも、実際にお金を渡してビジネスを展開することで、友達と一緒にそのお金を有効に使わないといい成果がおさめられないため、友達と協力や工夫、努力、分かち合いといったことを自然に考えるようになります。

――「座学」や、数字の増減をネット上で黙々と見るだけでは決して得られない、まさに立体的な体験ですね。

藤野:そうなんです。最近、「シェア」という言葉が盛んに言われていますが、まさに株式会社こそが、シェアリングエコノミーです。会社をみんなでシェアして支えていく姿なんですね。

どこかの企業に所属して、我慢しながら働いて、その我慢料を毎月1回お給料として受け取るのではなくて、仕事というのは創意工夫して何をするのかを決めて、自分たちで選択して協力して行うものなんだという概念を持ってほしいですね。

それこそが、「マネー教育」につながると考えています。
 

撮影/水野昭子
取材・文/西山美紀
構成/片岡千晶(編集部)

 


前回記事「46歳女性の住宅ローンの悩み「義母のために住宅ローンを2つ組むのはあり?なし?」」>>

 
  • 1
  • 2