夏休み中は、親子で過ごす時間も増えるもの。そういうときにこそ、普段できない話を子どもとしたいですよね。「お金について」の話題もそのひとつではないでしょうか? 今回は「ひふみ」シリーズを運用している会社の代表取締役会長兼社長で、『14歳の自分に伝えたい「お金の話」』の著者でもある藤野英人さんに、マネーコラムニストの西山美紀と編集部員の片岡が「子どものマネー教育」について、話を伺いました。
 

<今回お話を伺ったのは……>

 

藤野英人さん
レオス・キャピタルワークス株式会社 代表取締役会長兼社長
国内・外資大手資産運用会社でファンドマネージャーを歴任後、2003年レオス・キャピタルワークス創業。「ひふみ」シリーズ最高投資責任者(CIO)。投資啓発活動にも注力し、JPXアカデミーフェロー、東京理科大学上席特任教授、早稲田大学政治経済学部非常勤講師、叡啓大学客員教授を務める。一般社団法人投資信託協会理事。

 


――子どもと一緒にいる時間が多くなる夏休み。「子どもの成長」を改めて実感することも多いのですが、藤野さんは、人の成長についてどのように考えていらっしゃいますか?

藤野英人さん(以下敬称略):私は、人の成長には「4つの材料」が必要だと考えています。

それは「食べ物、出会い、本、体験」です。

「人間を成り立たせているものってなんだろう」と思ったら、僕らは植物のように光合成ができないので、外部から取り入れる食べ物100%でできているわけですよね。「何を食べるか」は、心と身体をつくる大切なことだと思っています。

さらに、僕らがこれまでどういう経験をして今のような人格になったのかを考えてみたときに、自分の幼少期から思い返してみると、両親との出会い、学校の先生との出会い、友達との出会いというふうに思い浮かべます。
誰と、どのように出会って、どのように交流したかで、その人を成り立たせるのでは、と思います。

――人との出会いによって考え方が大きく変わっていくこともよくありますね。

藤野:はい、そうですよね。さらに、「本」というものも、人をつくるうえで大きな存在だと思います。間接的に著者と出会う場だからです。

例えば、オバマ大統領やトルストイと、直接出会う機会はなかなかありませんが、そういった普段会えない人と直接会って話を聞いたような疑似体験ができるからです。

最近はkindleなどでも簡単に本が手に入りますが、子どもがいる家庭の場合は、手に取れるような形で紙の本があったほうがよいのでは、と思います。
データを見ても、蔵書数に対して、子どもの偏差値や子どもの教育意欲が比例しているという話も聞きますから、本がある環境というのはすごく大切だと思います。

編集部注:「保護者に対する調査の結果と学力等との関係の専門的な分析に関する調査研究」(平成30年3月30日 国立大学法人お茶の水女子大学)によると、家庭にある子ども向けの本の冊数と子どもの学力の関係では、「小6の国語・算数」「中3の国語・数学」それぞれにおいて、0~10冊から、501冊以上まで増えるにつれて、学力が高くなっているデータがあります)


藤野:あとは「体験」ですよね。「イメージできないことは、マネージ(取り扱う、処理する等)できない」という言葉があります。

つまり、イメージできなければ、自分でどのように対処したらいいかわからない、ということなので、体験価値をたくさん持つことで、その体験に基づいて判断できるようになると思うのです。

この「食べ物、出会い、本、体験」を子どもにたくさん持ってもらうことで、成長を促していけるのではないでしょうか。わが子だけでなく、会社の経営者が、社員に対して成長を促したいときもこの4つをどうしていくか、を考えることが大切だと思います。

今、私の会社でもまさに、「食べること、出会い、読書」などができるように、カフェテリアを中心とした“場”を社内につくろうかと思案しているところです。

――人の成長に必要な4つのこと、まさに自分自身でも感じるところが多々あります。藤野さんご自身も、お子さんに意識して取り組まれたことがありますか?

藤野:はい、特に「本」ですね。子どもが本が欲しいといったら、もちろん無限には買えませんが、特に予算を設けることなく、買い与えていました。

また、うちの子は娘なのですが、大学受験で志望校に縁が無く、高校を卒業して1年間、フィリピンに行って、レアジョブという英語学校で1年間、働きながらインターンをしたんです。彼女にとって、それは劇的な体験となりました。

英語を話せるようになったことだけでなく、フィリピンの人とかかわりながら友達関係を築くこともできましたし、最後のクリスマス会のときに、「今年のハッピーガール」に選ばれて、急きょ2,3分の英語のスピーチをしたそうです。すごいな、と思いました。

もし、自分が、外国で突然「きみはハッピーボーイだ」と言われて、英語でスピーチを3分することになって、果たしてできるかどうか……。いや、なかなかできないかもしれません。

彼女がいい「体験」をしたことで、大きく成長をしたのだと感じました。

――お子さんがやりたいといったことを、応援してあげたのですね。

藤野:そうですね、フィリピンのマニラで、アジアの中でも、当時は決して安全とはいえないところですから、彼女が1年間インターンに行くことに、親戚からは大反対の声があがっていたんです。

でも僕は「好きなことをやったほうがいい」と背中を押しました。箱入り娘に育って、23、4歳になってそういうところに行く方が、むしろ危険なのではと思ったんです。

心が柔軟な若いうちに、多少なりとも失敗しておけば、その後に厳しいところに行ったときにノウハウがわかって対処しやすくなるはず。「かわいい子には旅をさせよ」という言葉は、まさにこういうことなんだろうなと思いました。

 
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