――新しい人を採用されたというお話がありましたが、コロナ禍では採用基準も変わりますよね? どんなことを大切にして採用されましたか?

 

藤野:いつも思っていることなのですが、例えば大事な仕事があって、足早にその仕事に向かっていたとします。
東京駅のデパートを通り抜けたときに、おじいちゃんやおばあちゃんが倒れているところに遭遇したとします。そのときに、そのおじいちゃんやおばあちゃんを、まず救出することに身体が向く人を社員にしたい、と思っています。
仕事よりも、目の前の人命を大切にする人、そういった根本的な優しさがある人、です。

それを踏みにじるような人は、うちの社員にしたくないなと思っています。もし、そういう理由で遅刻したことで、失うようなお客さん、取引先さんであれば、そもそも失っていいと思っています。

そうでないと、広い意味でいう「仲間」にならないと思うのです。
それは、社員だけでなく、取引しているお客様含めて、大切な考え方です。

パワハラやセクハラをするような会社は絶対に許せませんし、たとえ業績が大きく伸びる可能性があって「ひふみ」シリーズの投資先としては魅力的だとしても、パワハラやセクハラを許している会社は、投資先から外すことにためらいはありません。

そういう考え方が、会社をつくっていくことで非常に大切だと思っているんです。

 

――そう思われたきっかけは、何かありましたか?

藤野:以前、ゴールドマン・サックスで勤務していた時に学びました。ユダヤ系の会社なのですが、ユダヤ人は歴史的にも差別に非常に苦しんだことがあるため、差別を許さない文化があるのです。
人種や性別などでハンディキャップの差別があれば、それがどんなに収益を出す人物であっても、即刻クビにしたりします。

結果的に、働く社員に強い信頼とロイヤリティを生むことになり、それが高い収益率につながっているのがゴールドマン・サックスという会社だと思います。そういう人の良さは、すごく大事だと感じました。

楽しく人生を歩んでいる人の方が、仕事も絶対にうまくいく。
楽しんでいるということは、心が安定していることでもあります。ビジネスは、お客様が何を求めていて、何が好きなのかということに対して、アンテナを張っていることが大事ですが、人に対しての共感力が高い人は、プライベートでも仕事も成功しやすいと思います。

お客様の喜びや悲しみがよくわかるからこそ、いいビジネスができる。
逆に、そういう「良い人」を上手に活用できない会社は、何かが間違っている気がするんです。

――その思いは、この1年半でさらに強くなりましたか?

藤野:そうですね。コロナ禍により世の中の状況が変わって、お客様とどう向き合うのか、社員、そして自分の生活とどう向き合うのか、ということを改めて考えて、自分自身も学んだことは大きいです。

――直接、人と対面する機会もかなり減りました。

藤野:対面の機会が減っているのは、実は深刻な問題です。

もともと、在宅ワークの推進は、コロナショックの前から準備をしていたのですが、一方で、面と向かって人とコミュニケーションをすることも大事だと思っています。

これは一例ですが、私のコロナ感染拡大前の最後の出張で、社員と一緒にとある会社を訪問したのです。帰りにうなぎを食べたのですが、食事中、「ああでもない、こうでもない」と、公私含めて、いろいろな話をしたことを鮮明に覚えています。

今は基本的にオンライン会議でたくさんのメンバーと同席していますが、直接会っていろいろ話すことにはものすごく大きな価値があったなと感じています。

なんでもない会話というものを、もっと社員のみんなとやりたいと、今すごく感じています。やはり「身近な人を大切にしたい」という思いが、より高まっていますね。
 

撮影/水野昭子
取材・文/西山美紀
構成/片岡千晶(編集部)

 


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