Twitterで公開される度、「泣ける」「涙が止まらなくなった」というコメントがつく、ロボットを主人公にしたオムニバス作品『機械仕掛けの愛』。AIやロボットと共存する生活が身近になってきた2021年の今と未来を予見し、コロナ禍で人々に足りないものを補ってくれるような作品です。

『機械仕掛けの愛』(1) (ビッグ コミックス) 

作者の業田良家さんは、ぺ・ドゥナさん主演で映画化された『空気人形』や、中谷美紀さんと阿部寛さんが共演した『自虐の詩』などでも知られています。共通するのは「人間らしい複雑な感情」について描いていること。本作ではロボットたちとの日常を通じて、「人間らしい感情」や「人は何のために生きているのか」ということを思い出させてくれます。

 

今回は、全7巻の中から「ペットロボ」「花嫁の父」「眼科医ルック先生」を紹介します。

まず、1巻収録の「ペットロボ」。小学生くらいの女の子ロボットが主人公。その名の通り、愛玩動物のように扱われるロボットなのです。

 

遊園地に「両親」と遊びに来ているある日、メリーゴーランドに乗っている彼女を見た「母親」はため息をついてつぶやきます。
「飽きてきちゃったな、あの子……」
すると、「父親」は「まあ、2年も使っているからな」と。

 

「次は 男の子がいい。」
そして、遊園地の帰りに「ペットロボ」のお店に寄り、新しい男の子のペットロボを購入した「両親」。彼らはもう女の子のペットロボには興味を持たず、彼女は暗い部屋でイス型の充電機につながれたままになっています。
充電されながら、彼女はこれまでの人生、ならぬ「ロボ生」を思い返していました。

またワタシ、中古として売られていくのかな。

 

ストレス発散のため、変なことをするため……いろんな目的でたくさんの人に買われてきた彼女。でも、今でも印象に残っているのは、ある一人の優しい「お母さん」でした。

ワタシには 忘れられない お母さんがいる

あのお母さんに会いたい。

こっそり家を抜け出し、かつて住んでいた家を訪ねに、電車とフェリーを乗り継ぎ向かいます。道中、思い出すのはお母さんと暮らしていた日々。また、一緒に暮らせないのかな。そんな思いで、ようやくたどり着くとそこにいたのはあのお母さんと……。
ロボットに宿る記憶と感情のようなものを感じ取れる物語です。


次は、第4巻から「花嫁の父」。

ロボットの体になった父親が、娘の結婚披露宴に出席しています。花婿側の来賓から「新婦の父親の席見ろよ、ロボットじゃん」などと陰口を叩かれていても、彼自身は娘の晴れ姿を見られたことで感無量の思い。

「ついに この日が来たのだ。」

 

そして彼は、亡くなった妻が同席できなかったことだけを悔やんでいます。

一家は、かつて交通事故に遭いました。妻は即死、まだ赤ちゃんだった娘は無事でした。そして夫である彼は、一命をとりとめたものの、頭から下が動かない状態になってしまった。その時、彼は決断したのです。

 

自分の脳の情報すべてをロボットに移し換える「全脳エミュレーション」を。
この手術で、生身の肉体と脳は失ってしまいましたが、ロボットの体になり、妻の分まで懸命に娘を育て上げた彼。

妻のカオルにも 花嫁姿を 見せたかったな。

 

でも、なぜか、妻の写真が家に一枚も見当たらず、披露宴で飾ることができなかったのです。いったいなぜ? その意外な理由とは……。
家族になることとは? その本質に気づかされる物語です。


最後に第6巻から「眼科医ルック先生」。
ルック先生は総合病院で働く眼科医ロボット。剥がれた網膜の手術も、両眼を失った患者も受け付け、手術成功率100%を誇る素晴らしい腕のお医者さんです。助手のファンダスもロボットで、淡々としながらも確実に患者さんたちの眼と人生を救っています。

 

この病院で栄養士として働く齋藤さんは、交通事故で両眼を失うもルック先生が電子義眼を入れてくれたおかげで、視力を取り戻しました。それから彼は、医療現場の近くで関わりたくて栄養士の資格を取ったのでした。

ルック先生には 感謝しても 感謝しきれない。

そんな人はきっとたくさんいることがわかる描写が続きます。

 

ある日、齋藤さんは出勤すると、ルック先生がどこかに運ばれていくのを見ます。院長によると、最新の外科ロボットを新たに導入したということで、先生は売却されるのだそう。

 

じゃあ ルック先生はこの病院からいなくなるということですか。

齋藤さんは、恩人である先生のため、ある行動に出ます……。
私たちは日々、誰かから恩(情けや慈しみ)をもらって生きているんだった、とじんわり感じられる物語です。


『機械仕掛けの愛』の多くのロボットたちが持つのは、見返りを求めず、報われなくてもただ与えたいから与える無償の愛。たとえプログラミングされているだけだとしても、ピュアな「人間らしさ」を感じるのです。
「泣ける」「涙が止まらない」と言われるのは、きっと彼らが、私たちの心に埋もれている愛のカタチを思い出させてくれるからなのかもしれません。

コロナ禍もまだまだ続き、私たちの心がネガティブな方に揺さぶられるニュースが多い昨今ですが、ざわざわする不安や悲しみの気持ちを洗い流して、自分の内側にもともとある、誰かに優しさを与えたり、慈しむ心を思い出させてくれるようなオムニバスです。
 


【漫画】『機械仕掛けの愛』から「ペットロボ」など3話を試し読み!
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『機械仕掛けの愛』
著者:業田 良家 小学館 

持ち主に飽きられたペットロボの女の子、仕事でドジばかりする劣等ロボの青年、料理上手なお母さんロボ……心を持ったかのように見えるロボットたちが、プログラミングされた機能を通じて「人間らしさ」を描き出す一話完結のオムニバス。第17回手塚治虫文化賞短編賞、第19回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞作。


作者プロフィール:業田 良家
映画化された『空気人形』や『自虐の詩』が代表作。『機械仕掛けの愛』は2010年から2021年までビッグコミック増刊号(小学館)で連載。続編として新シリーズ『機械仕掛けの愛 ママジン』が連載中。


構成/大槻由実子