◆その3 こんな症状なら心臓の病気を疑って
自己チェックの見極めポイント


40代、50代ぐらいで胸が苦しくなったとしても「まあ、心臓じゃないよね」と思う人のほうが多いのではないでしょうか? 病院に行ったほうがいいかどこで判断すればいいのか気になります。

・胸部症状を感じる場所 
胸全体、ネクタイの範囲、背中に広がる、左の腕や首、奥歯に広がる。
ピンポイントでここが痛いというより、このあたりといった手のひらより広めの範囲。

・胸部症状の感覚
圧迫感、鋭い痛みではなく重い石がのっかっているような重苦しい感じ。何かにギュッと胸を掴まれるような感じ。鈍痛。同時に左の奥歯がうずく。脂汗をかく。ちょっと普通じゃない苦しさ。
痛みの長さは5分以上、または10分〜15分間、波がなく症状が続く。繰り返しでる、または最近頻度が増えてきた、突然脈が速くなった、遅くなった、脈の乱れが続くなども、心臓の病気が疑われます。

「外来で診ていると、少し脈が飛んだ、心臓の鼓動が強い感じがする、1、2分の瞬間的な鋭い痛みという症状では、重症な心疾患の可能性は低いです。瞬間的な鋭い痛みは神経痛、痛みに波がある場合や食前後に関連する場合は消化器疾患、姿勢の変化で痛みが変わる場合は整形外科疾患の可能性も疑います。普段とは違う、冷や汗がでるような痛みが5分以上続くことがあれば狭心症や心筋梗塞の可能性がありますので受診を勧めます。
みなさんがよくおっしゃるのは、「死がよぎる痛み」と。ちょっと怖くなる痛みを意識した場合は、病院に行って調べてください。

基礎疾患がある、家族に心疾患の方がいる、長らくステロイドを飲んでいる、若い方では一型の糖尿病で糖尿病の薬を飲んでいる、喫煙者、お酒をたくさん飲む方はリスクが高いので、症状があったら一回調べてみることをオススメします。また、脈の乱れや頻脈がずっと続く場合は、不整脈の可能性がありますので、その時も受診をオススメします。それと、若い方に多いのが心膜心筋炎です。これも重症化することがあるので、風邪症状や発熱とともに深呼吸で胸の痛みを感じたら、やはり病院受診をしたほうがいいでしょう」(遠藤先生)

私の場合は、胸がモヤモヤ痛んでもじっとしていると10分程度で収まるので放置していたのですが、実はそれが心臓からのSOSだったのです。また、症状が収まってしまった段階で病院へ行っても、診断がつかないだろうとも思っていました。

「病院受診時に症状が治っていても、心電図や血液検査に問題がなくても、症状から心臓らしいかどうかは想定できます。典型的な症状であれば病気を疑って、負荷心電図やホルター心電図、心臓CT、心エコー検査、場合によってはカテーテル検査や、ニトロを処方して効果をみるなどして、診断をつけていきます」(遠藤先生)

心臓は悪化すると足が早いので、症状をスルーしていると、私のようにある日突然倒れて、後悔することになりかねません。


◆その4 コロナ禍の今だからこそ
昼間のうちに早め早めに病院に


コロナ禍の今、病院への足はますます遠のいています。出来る限り行きたくないので検診を怠ったり、何かわかって入院になったらやっかい、医療従事者へ負担をかけたくないと、症状があっても我慢する人が増えています。

「心臓に痛みがあったけど病院に行きづらく、ずっと我慢していて2、3ヵ月後に心筋梗塞で倒れて運ばれてくる方がいらっしゃいます。もっと早く来れば未然に防げていた方が、イベントを発症してから運ばれてきているケースは増えています」(遠藤先生)

実際は、コロナ禍でも可能な限り一般診療を病院は続けています。発熱やコロナ診療と一般診療を分けて安全に診療を続けていますので、過度に感染を恐れる必要はありません。気になる症状があれば、まずはかかりつけのクリニック、または近隣の病院へ行きましょう。

「平日の日中にクリニックや病院の内科または循環器外来を受診することを勧めます。ただでさえコロナ禍でもあり、夜間休日の救急外来は混沌としていて、最低限の問診と検査しかできません。我慢して症状が悪化しても、コロナ禍では救急要請も難しくなっています。早め早めに動いてください」(遠藤先生)

報道にもある通り医療現場は想像以上に逼迫しています。救急車を呼んでも救急車はなかなかこない上、病院へは運ばれないケースが増えています。心臓は急変すると時間との勝負になりますので、前兆を察知し昼間のうちに病院に行っておくことは、自分の身を守るばかりでなく、医療現場の負担を減らすことにつながります。


◆その5 賢くデジタルデバイスを活用しよう
基本の健康管理で心臓を守る


ここ1、2年で遠藤先生の外来には「スマートウォッチ」や「携帯心電計」で、自分で計測した記録を持ってくる若者が増えているそうです。

「日本は遅れていますが、海外では自分の健康を自己管理する『デジタルヘルスケア』という考え方が普及しています。たとえば『アップルウォッチ』など終日心拍数を記録できる機能を備えたスマートウォッチが最近普及しており、実は不整脈の早期発見にもつながっています。運動している方やセルフケアに関心の高い方だけでなく、会議中や睡眠時の心拍数を自己評価しストレス対策をする企業も増えており、働き方改革に活用していると聞きます。また、高齢の家族にプレゼントして家族でサポートするケースも増えています。胸が痛い時や動悸を感じる時に心電図が記録できる『携帯心電計』もあります。サイズはスマホ程度で、価格は2〜3万円台で手に入れられます。症状が出た時に記録して、外来に持ってくる方もいます。それをみると不整脈や心房細動、狭心症の診断に至ることがあります」(遠藤先生)

家族で共有できる、持ち運べる、データをPCへ転送して管理もできるスグレものが増えています。体温計、血圧計や体組成計など、さまざま便利なデバイスを健康管理に活用するのは、これからの時代のデフォルトになっていくはずです。

「最後にもうひとつ、寒暖の差に注意です。猛烈に暑い外から、ガンガンに冷房の効いた室内に入ると、血管が急激に収縮し、自律神経も乱れ、それが血管や心臓の負担になります。最近流行りのサウナでも水風呂との寒暖差や脱水症状に気をつけてください。心筋梗塞を起こした方や血圧が高い方は要注意です。慣れていない方は、水分補給して無理しないように」(遠藤先生)

サウナーは気をつけて整ってください(私もサウナー)。備えあれば憂いなし。猛暑のコロナ禍から心臓を守りましょう!



遠藤 彩佳先生 済生会中央病院・循環器内科・副医長
日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医


【写真】山手線で心肺停止後に、奇跡的に回復⋯⋯ ! ICUから入院生活へ
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『山手線で心肺停止! アラフィフ医療ライターが伝える予兆から社会復帰までのすべて』
熊本美加・著 上野りゅうじん・漫画 鈴木健之・監修 1320円 講談社

毎年の健康診断では「問題なし」だったアラフィフの医療ライターが、ある朝、山手線で心肺停止に。予兆はなかったのか? その時、生死を分けたものとは? その後、高次脳機能障害となるもリハビリを経て仕事復帰するまでをまとめた「蘇りルポ」をコミック化。主治医の監修付きで実用書籍にしました。自分と大切な人のために、読んでおきたい一冊です。


取材・文/熊本美加


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