欧州各国は日本と同じような皆保険制度を持っており、誰でも病院にかかれますが、無制限に病院を利用させてしまうと、医療財政が破綻してしまいます。このため欧州では、軽い病気の場合には、すぐに入院できなかったり、治療法が制限されるなどの制約条件を課しているところがほとんどです。

日本では、患者が希望すれば、ほとんどの治療をすぐに受けることが出来ますが、当然のことながら患者数は増え、医療従事者の負担も増加するという流れになります。その結果、医療従事者が担当する患者数が欧米の3倍にもなってしまったわけです(日本の診療報酬が安く、病床を増やさないと病院の経営が成り立たないという事情もあります)。

これはコロナ前から分かっていたことであり、今回の感染爆発までには1年以上の余裕がありました。本来であれば政府は対策を打てたはずですが、「コロナなどたいしたことはない」という強硬な意見が存在したことや、オリンピック開催を最優先したことから、医療体制の強化は行われないまま現在に至っています。

東京五輪開催直前の2021年5月、貼り紙で医療現場の窮状を訴える東京・立川の病院。写真:片野田斉/アフロ

ここでは政府の対応について議論しませんが、医療従事者の負荷が大きいという根本的な問題が解決されない限り、今後も同じ問題が継続すると考えた方がよいでしょう。加えて医療保険の財政は相当、悪化していますから、長期的に見て、医療の質がさらに低下することも十分に考えられます。

 

自費による診療(自由診療)は目が飛び出る程の金額となりますから、一部の富裕層以外はそうした治療を受けることはできません。新興国の中には、人件費が安いことを利用して先進国並みの設備を備えた大病院を建設し、外国人患者の受け入れをビジネスとしている国もあります(いわゆる医療ツーリズム)。今後は日本でもより質の高い医療を求めて、外国の病院にかかる人が増えるかもしれません。

医療の質が下がるという現実を前に、私たちにできることは限られており、最大の対策は、可能な限り病気にならないことです。ケガや不可抗力による病気はやむを得ませんが、生活習慣病であれば、日頃の養生によって、ある程度コントロールできます。今、猛威を振るっているコロナウイルスについては、希望する人はワクチンを打ち、できるだけ外出を控えるしか自衛する方法はないでしょう。

国民皆保険制度は国民のために存在する制度ですから、私たちも制度を維持していく努力が必要となります。本来、大病院は重篤な患者を優先すべき施設ですから、これからの時代は、ちょっとした風邪程度の場合には、「念のため」といって大病院に行くことは避けた方がよいかもしれません。


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