告白


「瑤子さん。もう、この際正直に話してよ、全部」

その夜彰人の家に行くと、彼はまずさっと蕎麦を茹でてたっぷりの薬味と一緒に瑤子に食べさせたあと、どっかりとソファに座りこんだ。

「ええと、彰人、ごめんなさい。嘘をついてたことは謝る。まず英梨花たちと同居してることだけど、春奈が離婚してシングルマザーで苦労して……私は家のことやってくれる人が欲しかったのもあるし、部屋もあったから、2年前から一緒に住んでるの。生活費も……出してる」

瑤子はソファに彰人から離れて正座すると、ずっと頭の中で反芻していた通りに一息に話した。

こういうシリアスでこみ入った話をしなくて済むから、彰人は自分と付き合っているはずなのに。ルール違反をしたようで、ひたすら申し訳なかった。

 

「……それはわかった。それで、病気のほうは? 大丈夫なの?」

「そっちは大丈夫! まあ私も調べてる途中なんだけど。ごく初期の乳がんで、手術でちゃちゃっととっちゃえばOKって、先生も」
    
「ちゃちゃっと、って、そんな簡単な話じゃないだろ。なんで言わないんだよ。黙って手術するつもりだったの?」

瑤子は、驚いて彰人の顔を見た。

てっきり面倒なことを聞いたと腫物を扱うような反応になると思ったのに、彼に浮かんでいるのははっきりした怒りの色だった。

うぬぼれかもしれない。でも多分、心配だから、怒っているように見えた。

「妹さんたちのことも、そもそもなんで僕に隠す必要があるのかさっぱりわからん」

「え、だって、重くない? 二人も養ってるうえに同居してる43の女、なんて。しかも共依存っていうか、なんかいびつな感じがするでしょ。家族のかたちとして正しくないっていうか……」

「何言ってんだよ、家族だろ?」

彰人は怒りながら、瑤子の隣につめて、ぼふんと座った。

「デートで見に行く映画、検索しようとしてさ、転がってたiPad開いたんだ。

そしたら、乳がん、病院、のあと、めっちゃ同じような検索ワードが出てた。生命保険受取人変更、ローン団信、遺族、奨学金。英梨花ちゃんたちのことが心配でたまらなかったんだろ? 病気になってまっさきにそのこと、考えたんだろ?

もうさ、それって家族だよ。正しいも正しくないもない。誰がなんと言おうと、春奈ちゃんと英梨花ちゃんは、君の家族なんだ、とっくに」

瑤子は、何をどう言えばいいのかわからず、ただ呆けたように彰人の顔を見た。

ずっと誰かにそう言ってほしかった。

いや、誰が言ってくれなかったとしても、自分が堂々としていればよかった。

それなのに、周囲の目を気にして、普通でないと引け目を感じて、殻に閉じこもっていたのは瑤子自身だった。

世界はこんなにも温かいのに。

瑤子は、せきを切ったように、わんわん泣いた。がんだと告げられてから初めて、声をあげて泣いた。

「……彰人~、私、がんになっちゃったよ……なんで? けっこう食事にも気を付けてたし、運動だってしてたのに。どうしよう……治らなかったら、どうしよう、転移したらどうしよう」

彰人は、瑤子を抱きしめ、頷いた。

「大丈夫、だいじょうぶだよ。病気なんだ、仕方ない、誰も悪くない。きっとすぐ治るから。僕も先生に話、ききにいっていい? 一緒に作戦会議しよう。瑤子さん、戦略立てるの得意だろ?」

その夜、いつまでもわんわん泣き続ける瑤子に、彰人はずっと寄り添ってくれた。

 

3日後。

「どうした一条、話ってなんだ?」

部のミーティングが解散したあと、瑤子は上司の高木と部長に「10分だけよろしいですか」と声をかけ、小部屋に移動した。