吐くことを意識すると自然と吸えるようになる


安藤:観察力を上げるために佐渡島さんがしていることや、漫画家やクリエーターに課題として出していることはありますか。

佐渡島:漫画家には、「1日1ページ漫画を描く」課題を出しています。

観察力というと、ものをじっくり見てインプットするというイメージになりがちです。でも、毎日漫画でアウトプットをしていると、昨日はこんなアウトプットだったから今日はこうしたいなと改善していく。自然とインプットの質も上がっていく。みんな良いインプットをできたらアウトプットしようと思うんだけど、アウトプットを習慣化して、小さく何回もやることを習慣づけていると自然と観察力が上がっていくんです。

僕はこの頃、自分の体を観察していて。息を吸うことを意識すると、過呼吸になっちゃうんですけど、吐くことを意識すると勝手に吸う。できるだけゆっくり長く吐くと、自然と良い吸い方ができるんです。まずアウトプットというのも同じだと思います。

 


他人が立てた計画はみんなやりたがらない


安藤:本の中で、「振り返り→計画→実行」の順番でサイクルを回すとあったのも印象的でした。人は何かをするときに、計画を先に立てがちですが、まずは振り返りから入ると。

佐渡島:会社を経営していて何が苦しいかって、良い計画を立てても誰もやってくれないってことなんです(笑)。会社で、すごい良い計画を立てたなーって嬉々として話しても、他人が立てた計画だとみんなやりたがらない。

これは子育てをしていてもそうです。子どもに「ここ行くぞ!」って言うと、子どもが楽しむことを考えたのに僕が行きたいところに仕方なくついていってやる見たいな感じになっちゃう(笑)。

だけど、まずは子どもたちと「次どこ行きたい?」「前回の旅行はどうだった?」って振り返る。「ここ行きたい!」って子どもたちが言って、「じゃあそこにどうやって行けるかな?」って計画を一緒にすると、子どもの行きたいところに行くのを手伝う形になるんですよね。

安藤:なるほど。相手をサポートすることにもなるんですね。

佐渡島:振り返りから始めると無理がなく動けるんです。今回本を書きながら、社内でもまずは振り返ってから計画を立てるようになりました。

安藤:振り返りから入ることとアウトプットからやっていくということは同じですね。「自分はどういう作品を書きたいのか」「どんな反響が欲しいのか」みたいなところから考えると、インプットが変わっていくと。

佐渡島:新しい本を書くために編集者と打ち合わせをするときも、「次どんな本書きましょうかね」とか「売れるにはどんな感じにしましょう」とか、そういう打ち合わせをすると思うんですけど。

安藤:それ困るんです! 私、そういうのがあんまりなくて。

佐渡島:だから、まずは過去の本を全部一緒に見直すんです。「この本でできたことはなんだったんだろう」「できなかったことは何だったんだろう」と振り返る。完璧なものなんてないから、振り返っていると「本当はもっとこれやりたかったんだよね」というのが自然と出てくるんです。そこでそれをやろう、とやっていく。

安藤:すごい実践的ですね。


後編は、多様に変化し続ける世の中をどう観察していけば良いのか、お届けします。

 

佐渡島庸平(さどしま ようへい)
株式会社コルク代表取締役社長。編集者。1979年生まれ。中学時代を南アフリカ共和国で過ごし、灘高校に進学。2002年に東京大学文学部を卒業後、講談社に入社し、「モーニング」編集部で井上雄彦『バガボンド』、安野モヨコ『さくらん』のサブ担当を務める。03年に三田紀房『ドラゴン桜』を立ち上げ。小山宙哉『宇宙兄弟』もTVアニメ、映画実写化を実現する。伊坂幸太郎『モダンタイムス』、平野啓一郎『空白を満たしなさい』など小説も担当。12年10月、講談社を退社し、クリエイターのエージェント会社・コルクを創業。インターネット時代のエンターテイメントのあり方を模索し続けている。コルクスタジオで、新人マンガ家たちと縦スクロールで、全世界で読まれるマンガの制作に挑戦中。

 

安藤美冬(あんどう みふゆ)
作家・コメンテイター。1980年生まれ、東京育ち。累計発行部数20万部、新しいフリーランス・起業の形をつくった働き方のパイオニア。慶應義塾大学在学中にオランダ・アムステルダム大学に交換留学を経験。ワークシェアに代表される、働き方の最先端をいく現地で大きな影響を受ける。新卒で(株)集英社に入社、7年目に独立。本やコラムの執筆をしながら、パソコンとスマートフォンひとつでどこでも働ける自由なノマドワークスタイルを実践中。KLMオランダ航空、SK-Ⅱ、インテル、アクエリアスなど様々な企業の広告にも出演、働く女性のアイコン的存在である。最新刊『つながらない練習

『観察力の鍛え方 一流のクリエイターは世界をどう見ているのか』(SB新書)
佐渡島庸平 990円

メガヒットをうむために、鍛えるべきたったひとつの能力。
それは、「見る力」。多くの人の感情を動かす作品も、大衆に愛される商品も、すべては「観察する力」から生まれているーー。『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』『マチネの終わりに』を仕掛け、新人マンガ家の育成に携わる著者が、その頭の中をすべてさらけ出したビジネス・クリエイティブで最重要となる画期的思考。

『つながらない練習』
安藤美冬(PHP研究所)1925円

私たちはつながりすぎだ。

「スマホ依存」「つながり疲れ」が叫ばれる昨今。SNSによる誹謗中傷も問題になっている。

本書は、そんな現代人が抱える課題を解決するために、スマホやSNSを少しだけ手放してみる練習、ネガティブな情報、ニガテな相手から距離を置く練習を提案する。

著者の経験談を交えながら、私たちがいますぐ実践すべき「つながらない練習」を49紹介。

取材・文/片岡由衣

 
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