企業の定年を45歳にするという財界人の発言が話題となっています。企業としては定年を引き下げ、終身雇用をなくしたいというのが本音と思われますが、政府は企業に対して、むしろ定年延長を求めています。これからの雇用はどうなるのでしょうか。

サントリーホールディングスの新浪剛史社長(写真は2017年当時)。写真:つのだよしお/アフロ

サントリーホールディングスの新浪剛史社長は、経済同友会のセミナーにおいて「45歳定年制にして、個人は会社に頼らない仕組みが必要だ」と発言しました。この発言に対してはSNS上などで批判が集まったことから、新浪氏は翌日、「定年という言葉を使ったのは、ちょっとまずかったかもしれない」として発言を修正しましたが、「現実問題として終身雇用はもはや維持できないのでは?」という冷静な意見も少なくないようです。

 

新浪氏は45歳という具体的な年齢をあげて持論を述べたわけですが、定年を何歳にするのかはともかく、賃金が高い中高年社員に対しては「賃金に見合う働き方ができないのでれば出て行って欲しい」というのが企業側の本音でしょう。さらに言えば、定年そのものも不必要と考えている可能性が高く、必要に応じてスキルを持つ社員を雇用するのが企業にとっての理想ということになります。

一方、政府は財界とは逆の方向性を提示しています。今年4月には改正高齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業機会確保が努力義務となりました。現時点では「努力義務」ですが、大手企業にとっては限りなく義務化に近い内容であり、近い将来、70歳までの雇用が完全義務化される見通しとも言われます。

70歳まで企業が継続雇用するとことになると、平均寿命を考えた場合、限りなく生涯雇用に近くなります。政府は企業に対して、一生涯、労働者の生活を保障するよう求めているわけです。

当然ですが、社員の雇用期間が延びれば企業の総人件費は増大しますから、企業は対応に苦慮することになります。新浪氏の45歳定年論もこうした背景で出てきたわけですが、現実問題として70歳までの雇用義務が法律で定められている以上、正反対の仕組みである定年引き下げに動く可能性は限りなく低いでしょう。

政府が生涯雇用を強く求める中、定年引き下げや終身雇用制度の廃止を望んでいる財界は、どう対応するのでしょうか。政府の方針に真っ向から反対するとは考えにくいですから、企業は表面上、生涯雇用を維持したまま、似たような効果が得られる方法を探すはずです。具体的に言えば、希望退職の強化と、中高年社員を中心とした賃金の大幅な引き下げです。

 
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