「いいね!」欲しさに性的搾取を厭わない気持ち悪さ


長濱:「いいね!」の数を増やしたくて、最近では「性的搾取されてもいい」っていう女の子達がすごく増えているような気がして。もしかしたらきっと“性的搾取”などそこまで考えてないかもしれません。露出の多い服を着て「いいね!」とかフォロワーが増えたら、それはそれでいいじゃん、って言う。お仕事としてではなく一般の未成年の子たちが、危険を認識せずに軽い気持ちで世界中に発信してしまうことがどうにか改善されるといいなと思ったりします。

本谷:例えばそういう性的搾取に対する嫌だなと思う感覚は、今のところは正常だし、きっと彼女たちにも「これでいいのか」っていう疑問も心のどこかにはあると思うんですよね。でも、それをそのまま小説にしてもつまんないなと思っていて。彼女たちがどういう思考で「見せてもいいじゃん」って言い切っているのか。一切の疑問がなく、めちゃくちゃハッピーだって言ってる女の子の価値観ってどんな感じなんだろう、その子の目から見えているこの世界とか社会とか男性ってどんな感じなんだろう、って想像して書くのが、自分の中では創作の醍醐味です。自分から遠ければ遠い感覚ほどいい。

だから、どうなのかなと思うようなことを一回全力で肯定して見るんです。でも二重肯定って否定だったりするじゃないですか。文章でも「うんそうだよね、わかるわかる」って2回書いた時点で、違うことに思えるとか。

 


「伝えたい」って思うことなんて、たいてい大したことじゃない

 

長濱:書き出す時ってある程度流れを全部決めて書き出すんですか? こういうことを伝えたいっていうのを念頭において書き出すんですか?

本谷:一行先も見えてないです。むしろ「こういうことを伝えたい」と思いついたことは、片っ端から捨てるようにしてます。人間が「伝えたい」って思うことなんて、ほとんどが大したことじゃないってのが、自論で(笑)。だったらあえて、伝えようと思っていないことを選ぶ。自分の中には共感への興味がないし、作者の意図から外れたものの方が小説はどんどん面白くなると思っています。とはいえ、まったく心にもないことは書けないんです。書いていくことで潜在的に思っていたことを探っていくという作業かな。ただただ、「知らない光景が見たい」という欲望なんですよね。

長濱:すごい衝撃です。共感に興味がなく、知らないものが見たいというのが。

本谷:「今の社会で子育てするのって苦しいよね、大変だよね」と書いて誰かに共感してもらうよりも、今の自分には到底理解できないような価値観、「子供をネット漬けにするのが何よりも幸せ」と言っている人の感覚の方を書きたいと思ってしまいます。

長濱:『あなたにオススメの』も、だからこういう話になったんですね。

本谷:この小説の設定は一応今から10年後。近未来です。例えば登場人物の名前が「推子(おしこ)」とか「肚(はら)」とか、現在の固有名詞として絶妙にない名前を選んでいるのは、この小説が現実とどれくらい乖離しているかをうっすら示す指針になるかな、と。人物の名前や固有名詞を創作することで、現実と小説の距離感、関係性を少しずつ決めていっているような感覚です。

長濱:そのずらしがすごい絶妙で、ずーっと不気味な違和感がある感じでした。

本谷:「渇幸(かつゆき)」とか絶対にないであろう名前をつけることで、「これはフィクションですよ」っていうことを示しているんだけれども、そういう世界観で油断してもらっているうちに、その人が自分の中の生々しいものと直面したら面白いですよね。昔はある種のリアルはリアルに書かなければ近づけないと思っていたけれど、今は、嘘を混ぜることによってしか浮かび上がらないリアルもあるな、と思っています。 

 

長濱:ふたりのママが出てきますよね。どこか自分に近いところってありますか?

本谷:多分両方とも自分の中にあって、それぞれの感情をそれぞれの人格に置き換えてる感じかな。「子供をデジタルから遠ざけたい、自然に触れて欲しい」とも思うし、「デジタルから遠ざけたいって思ってるのも面白くない」っていうのも私。どちらの言い分にも加担するつもりはないし、どちらが正しいと書くつもりもない。作品の中では「子供は生まれた瞬間からネット漬けにする」人が多数派で、「子供はもっと子供らしく自然の中で遊ばせる」というのが少数派。 本当なら、少数派の言葉こそ真実、のように書くこともできるけど、今の時代の状況は本当に複雑で答えがないと思うから、「どちらも間違っているんじゃないか?」という視線を忘れないようにしています。

長濱:両方とも「自分が正しいのか?」ってことを自問している感じが、今お話を伺ってすごく腑に落ちました。なるほどって。

本谷:世の中って答えのないものばかりだから、そこにあえて答えを出さないようには気をつけていますね。