ご飯が食べられなくなったのは大量の薬のせいだった


80歳の女性、Cさんは私にとって忘れられない患者さんの一人です。夫を10年以上前に亡くし、娘夫婦と3人暮らしをしていました。80歳になっても、買い物かご付きの歩行器を押して自分の足で病院に通ってこられる、足腰のしっかりした方でした。

私が初めてCさんに出会ったのは、ある忙しい日の外来でした。私の外来がいつも以上に混んでいて、おそらく1時間はお待たせしてしまったでしょうか。少し待ちくたびれた様子で診察室に入ってきました。

その時の受診理由は、「ご飯が喉を通らなくなった」というものでした。

「ご飯が食べられない」と言われたら、真っ先に胃や腸が悪いのか、あるいは喉を通らないのだから喉に異常があるのかと思われるかもしれません。実際に、付き添いで来られた娘さんも「胃でも悪くなったのではないか。がんになったのではないか」と心配されていました。

 

私の頭の中でも、胃の病気は候補に上がっていました。しかし、まだその時点では可能性を胃の病気に絞っていたわけではありませんでした。

実際に詳しくお話を伺っていくと、腹痛や便の色、形や硬さの変化などはないということを教えてくれました。

 

飲んでいた薬は全部で20種類、1日40錠!


そしてさらに話を聞き進めていくと、心臓や腎臓に持病を抱え、おまけに膝の痛みで整形外科にも通っていることがわかりました。通院中の診療科は全部で3つの医療機関、5つの診療科に渡り、薬手帳をみると、全部で20種類以上の薬を飲んでいることが分かりました。1日3回の薬などもあり、錠数にすると、1日あたり40錠を超えていました。

疲れた様子のCさんでしたが、薬手帳を見せながら「こんなに薬を飲んでいたらお腹いっぱいになっちゃうよね」と微笑みながらお話ししてくれました。

娘さんからも話を聞いてみると、Cさんは昔から真面目な人で、頑固な夫の言うことも確実にこなす方だったようです。このため、薬も欠かさずきっちり飲んでいましたが、粒の大きな薬もあり、飲むのにはそれなりにたくさんの水を飲まなければならなかったということもわかりました。

それでもなお、Cさんは「先生に言われたことだから」と薬を欠かさず飲み続けてきて、娘さんも「歳をとるとそういうものだと思っていました」と教えてくれました。