風邪薬の副作用が招いた食欲低下


その時点で、20種類を超える薬ですら十分と思いましたが、さらに薬手帳を見ていくと、1週間前から総合感冒薬も処方されているのを見つけました。2日ばかり風邪をこじらせ、その後は喉の症状がすぐに良くなったものの「風邪がぶり返さないように」1週間処方された通りに飲み続けていたとのことでした。

 

「なるほど」と私は心の中で納得しました。Cさんの中で、風邪薬は「体調をよくするためのもの」「体調を維持するためのもの」だったにも関わらず、実は皮肉なことに全く逆になってしまっていたのです。

総合感冒薬には、確かに風邪の様々な症状をいっぺんに抑えてくれる効果が期待できる一方、眠気やだるさ、食欲を落とすなどの副作用が出る場合があります。

 

実際にだるそうにしている様子のCさんについて、「普段からこんな様子なのですか?」と娘さんに聞いてみると、いつもはもっと活発によく話すけれど、少し元気がない様子が続いていた、あまり食事を摂っていないし、風邪の後遺症もあるのかなと思っていたとのことでした。

しかし、このだるさも、薬の影響だと考えるのに十分でした。ただでさえ40を超える薬を飲み、おまけに総合感冒薬まで加わったのです。

時間をかけて薬手帳を確認していると、Cさんは「こんな風に薬手帳を見られたのは初めてです」と教えてくれました。それもそうでしょう。この薬手帳を全ての医師が見ていたら、こんな数の薬を出そうなど思いもしなかったと思います。

薬手帳の確認は、医師として本当に大切なことです。そこにはただの薬のリストという以上の様々な「メッセージ」が見てとれるのです。

複数の医療機関と連携して、薬を整理

Cさんにとっての優先事項を確認すると、とにかくこの食欲とだるさを回復させることでした。それを聞き、早速、風邪薬をやめるよう推奨し、薬も少し整理しませんか、とお話しして、その薬を処方する医療機関に了解をとり、もう必要がないと思われる薬をまず2つやめてみることにしました。また、薬をやめても食欲が回復しなかった場合には胃カメラなどが必要になる可能性もあるとお話しました。

 

1週間後にCさんに確認すると、だるさや食欲が少しずつ回復してきたと教えてくれました。その後、Cさんと娘さんはそれぞれの医療機関に連絡をとり、「私の外来に通院したい」と言ってくれたので、一旦私の外来だけに通院をするという形になりました。

その後、数ヶ月をかけて薬を半分ほどにまで減らしました。とても時間のかかるプロセスでしたが、Cさんが時間とともに元気を取り戻していく姿を見るのは爽快でした。

もちろん、薬をやめたことが全てではないかもしれません。しかし、その40錠を超える薬が少なからずCさんの体調にマイナスの影響をもたらしていたのは明らかでした。