世界中で起こるポリファーマシー


なぜこのようなことが起こってしまったのでしょうか。薬を処方する多くの医師が「患者さんを助けたい」との思いで薬を処方しているはずです。にもかかわらず、Cさんの場合、それらの思いが Cさんを苦しめることにつながってしまっていました。

皆さんは、「ポリファーマシー」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

 

「ファーマシー」という言葉ならご存じの方が多いでしょう。「ファーマシー」は「薬局」「薬学」という意味を持つ言葉です。そして、接頭辞の「ポリ」は「数多くの」という意味を持ちます。この両者をかけ合わせて、「患者さんが数多くの薬を飲んでいる状態」のことを指します。

実際に、こんなデータがあります。

「60歳以上の高齢者の約3人に1人が5つ以上の薬を内服している」(参考文献1)

実は、Cさんのようなケースは決して稀ではないのです。

 


薬が増えれば増えるほど、気をつけるべきは「薬物相互作用」


ただし、はじめに断っておきたいと思いますが、これは必ずしも全部が全部悪いこと、というわけでもありません。例えば、心筋梗塞を一度経験した人の場合には、次の心筋梗塞から心臓を守るために、最低でも4種類の薬を飲まなければならず、薬がそれ以上になることも稀ではありません。しかし、その人が薬を5種類や6種類飲んでいるからといって、「ポリファーマシーだ」「問題だ」ということにはなりません。薬は必要な時には必要なのです。

しかし、問題は薬が増えれば増えるほど、その中に不適切な処方が混ざっていることが稀ではなくなるというところにあります。実際にCさんの処方薬の中にも半数近くは不適切または不要と考えられる薬を見つけることができました。

また、薬が増えれば増えるほど、薬物相互作用と言って、飲んでいる薬同士が影響を及ぼし合い、一緒に飲んでいる薬の効果を不適切に強めてしまったり、弱めてしまったりすることで、副作用のリスクと、薬を飲んでいるのに効いていないというリスクが高まったりします。このようなことはなるべく避けなければなりません。

このように、薬と上手に付き合っていく上で、不適切な薬の内服がないか、薬物相互作用はないかといった点に十分注意することが重要になります。


前回記事「薬を使わず睡眠の質を上げる!不眠症を治すために自分でできる7つのこと【医師が解説】」はこちら>>


参考文献
1 Qato DM, Wilder J, Schumm LP, Gillet V, Alexander GC. Changes in Prescription and Over-the-Counter Medication and Dietary Supplement Use Among Older Adults in the United States, 2005 vs 2011. JAMA Intern Med 2016; 176: 473–82.

構成/中川明紀
写真/shutterstock

関連記事
高齢父母がやせて心配...原因は「入れ歯」や「毎日の薬」かも?【医師が解説】>>

認知症の新薬登場に世界が注目。懸念は副作用と高額な費用>>

アルツハイマー病の予防に有効な薬はあるのか【医師が解説】>>

薬を使わず睡眠の質を上げる!不眠症を治すために自分でできる7つのこと【医師が解説】>>

平均寿命は長いのに…「健康寿命」が残念すぎる日本人が知らない「5つのM」>>