認知症になっても笑顔で生きることはできる

 

認知症と診断された後、仕事の内容は変わり、車の運転免許証を返納して認知症と診断される前までの生活とはまるっきり変わってしまいました。仕事は営業ではなくなり、事務の仕事になったことにより社内の人以外の人たちとの関わりがなくなりました。

免許証を返納したことで移動の手段が車から公共交通機関に変わりました。いままでの趣味は車があるから気軽にできていたものばかりで、車がなくなってからは遊びや行動範囲も狭まりました。生活がしづらくなったのは間違いない事実です。

しかし、一歩踏み出したことにより、いままで出会うことがなかった人たちとの出会いがありました。講演がきっかけで全国で多くの人たちと出会い、一緒にご飯を食べたり、出かけたりする仲間が増えました。道に迷ったり、できないことがあったりする時には人に訊くことでサポートをしてもらっています。それは、家族、会社の仲間、友達だけではなく、まったく知らない人の時もあります。

みなさんが助けてくれることで人のやさしさを感じる機会が増えました。

認知症になったことはけっして良いことではありませんが、認知症になったからこそできた良い経験がたくさんあります。一つ一つの経験が私を笑顔に前向きにしてくれました。さまざまな経験から、考える力もついたと思います。

いままで経験したことのない経験をたくさんしてきました。これも多くの人たちとの出会い、新しいつながりによるものです。もし、いろいろな場面で「ダメ」と言われていたら、いまの私はいなかったと思います。自分で決めて動いた結果、認知症になっても良い環境となり、より良い生活が送れたのです。そして「認知症になっても新しい人生を作ることができる」と私は実感しています。

 

著者プロフィール
丹野智文(たんの ともふみ)さん:

1974年宮城県生まれ。東北学院大学卒業後、ネッツトヨタ仙台入社。トップセールスマンとして活躍中の2013年、若年性アルツハイマー型認知症と診断される。診断後は営業職から事務職に異動し勤務を続け、現在は認知症への社会的理解を広める活動が仕事になっている。2015年より、認知症当事者のためのもの忘れ総合相談窓口「おれんじドア」を開設、実行委員会代表。精力的に自らの経験を語る活動に力を入れている。著書に『丹野智文 笑顔で生きる -認知症とともに-』ほか。

『認知症の私から見える社会』
著者:丹野智文 講談社 880円(税込)

39歳で若年性アルツハイマー型認知症と診断され、300人を超える認知症当事者と対話してきた著者が、なかなか理解されない当事者たちの「本音」を告白。2025年には日本の認知症当事者が700万人になると予測されるなか、他人事とはいえない状況になってきた「認知症」と適切に向き合うための情報が満載です。これからの社会をより良く生きるための手引きとなるでしょう。



構成/さくま健太

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