<Chapter2>相手の“好き”から攻める


「本心を読み取るなんて、難しいよ!」と思う人にオススメなのが、“好き”から攻める方法。たとえば、『二月の勝者』第4話に着目します。この回のメインは、Rクラス(偏差値48以下)の生徒・勇人(守永伊吹)。母・香織(星野真里)は、息子に塾の特別講習を受けさせたいと思っているのに、父・正人(塚本高史)はスマホゲームばかりで話を聞こうとしない。受験塾の講習を、“詐欺”とまで言ってしまいます。

たしかに、「もったいない」という思いから後に引けなくなってしまうのは、苦い恋愛にも似ている。お金や労力など……コストをかけた分のリターンを取り戻したくなる現象を、“コンコルド効果”とも言います。リターンを得るまで、そこから離れることができない。最近だと、朝ドラ『おかえりモネ』(NHK総合)の未知(蒔田彩珠)の亮(永瀬廉)への想いも、“コンコルド効果”だと言われていました(この2人は、最後に結ばれたからよかったですが……)。

『二月の勝者-絶対合格の教室-』(c)高瀬志帆/小学館「週刊ビッグコミックスピリッツ」連載中

話を戻すと、正人は香織の気持ちを、この“コンコルド効果”だと思っていたんですよね。だから、自分のゲームには課金するのに、息子の塾へは課金することができない。香織は、勇人に「もっと成績を上げてほしい」という気持ちで、特別講習を受けさせたいと思ったのでしょうが。

ここでも、黒木が正人の心を開きます。「たしか、お父様はスマホゲームがご趣味だとか?」と言い、話を膨らませる。すると、正人も“好き”なことだから心を開くんですよね。座り方も前のめりになって、「話の分かる先生でうれしいです!」なんて言っちゃって。そして、黒木はこう言うんです。「中学受験は、課金ゲームかもしれませんね」と。

 

「ゲームの達人であるお父様ならお分かりかと思いますが、敵を倒し、次に進むためには、知識とコツ、テクニックが必要です。そして、何より大切なのがタイミングです。課金して武器を整え装備を整えるにも、タイミングを間違えたらお金をドブに捨てることになります。(中略)私たちはそのお気持ちに応えられるよう、精一杯勇人さんを“キャリー”させていただきます」と言い、息子への課金を“今”すべきだと促す。

このテクニックには、脱帽しました。相手がゲーマーでなければ、「課金ゲームだなんてくだらん!」と言われていたかもしれない。けれど正人にとっては、ゲームにたとえることが何よりも分かりやすく、闘争心を駆り立てられたのでしょう。他人の心を開くには、相手の“好き”なことで共感すること。そして心を開かせたら、“好き”なものにたとえて決断をさせる。このテクニックは、恋愛でもビジネスでも使えそうです。『二月の勝者』第2話でも黒木は、やる気のない生徒・匠(山城琉飛)の“好き”なことを見つけて、受験へのやる気を出させていました。