人生は1回きり。でも舞台なら何度も同じ人生を生きられる

 

ちょうど2年ぶりの舞台。「役を生きる」ことを何より大切にしている山田さんにとって、映像も舞台もフィールドが違うだけで、臨む気持ちは変わらないと言います。ただ物理的に異なるのが、劇場という生の空間で芝居をすること。そこには、映像にはない独特の難しさがあります。

 

「大きい劇場だと、普段の話し声より大きな声を出さなきゃいけない。そこでリアリズムがなくなってしまうのが僕はすごく嫌で。お芝居は完全に嘘から始まっているもの。それを本当に近づけるために必要なのは、本当の音と、本当の空気と、本当の世界。そこで少しでも嘘をつくと、自分の中でお芝居の感覚が狂ってしまうので。いかに自然な自分の喋り口調のまま、舞台として成立させるか。それを、この『海王星』でも探っていくことになると思います」

また、俳優として舞台に立つ楽しさは、「何度も同じことを繰り返す」ことにあるのだそう。

 

「同じ世界を何回も何回も生きていく中で、ふっと気づくときがあるんです。ここで相手を見たら、もっと伝わるなみたいなことに。たまたまいつもと違うタイミングでその人を見た瞬間、今までとは違う感情がぐわーって湧き上がってきて。そうか、この台詞の後じゃなかった、この台詞の前に見ればよかったんだと気づくことも。それが残りあと4公演しかないタイミングで。うわ、なんであと4公演しかないんだと悔しくなることもあります」

そう勢いづいて話したあとに、ふっと何か大切なことに気づいたように、山田さんはこう続けました。

「人生は同じことを何回もできないじゃないですか。大抵のことは1回やったら終わり。でも舞台なら同じ人生を何回でも生きられる。何回も同じことをやることで、そういう発見をできることが面白いのかもしれないです、舞台は。繰り返し繰り返しやっていくことで、人間の真髄というか、人間の奥底にあるものを味わえるのが、舞台の好きなところです」

 


人からの期待を裏切りたくない気持ちが、エンジンになる


本作に限らず、今や多くの作品で主演として迎えられることが増えました。けれど、山田さん自身は主演ということに特別な気負いはありません。

「どんな話においてもそうですが、登場するキャラクターみんなが主人公。たとえ脇役と言われたとしても、その人の人生においてはその人が主人公じゃないですか。だからあんまり自分が主演だみたいに思うことには抵抗があります」

それは、今まで数多くの作品で「脇役」と呼ばれるキャラクターに魂を吹き込んできた山田さんだから言える言葉のような気がしました。「役を生きる」ことを信条とする山田さんにとって、役の大小や作品の大小なんてものはことさら重要ではないようです。

「ですから、主演への憧れ、あの監督と一緒に作品を作りたいという気持ちが他の人と比べて少ないかもしれません。というよりそこに重きを置いていないです」

では、俳優・山田裕貴を滾らせるものは何なのか。その答えは、とてもシンプルなものでした。

「人から求められること。自分のやりたいという気持ちを叶えることよりも、山田裕貴にこの役をやってほしいんだ、という誰かからの情熱に応える方が燃えますね。期待を裏切りたくない気持ちの方がエンジンになるし、自分に対する負荷も2倍になる。そっちの方が僕は楽しいです」