日本では長くデフレが続いていたせいか、物価は上がらないという認識が強くなっていました。筆者が物価が上昇に転じる可能性があると指摘すると、どういうわけかネットではすさまじいまでのバッシングを受けました。自分と異なる意見に対してバッシングすることの道徳的問題はさておき、物価の上昇や下落という経済的にはごく当たり前の現象に対してすら、「あり得ない」「コイツは頭がおかしいのか」といった罵声を浴びせるというのは、カルト的な雰囲気すら漂います。

長年デフレが続いてしまうと、一部の人にとっては、物価が上がるというごく当たり前の現象についても「絶対にあり得ないこと」「そのようなことを口にする人は頭がおかしい」といった感覚が染みついてしまうということですから、経済が人々の心理に与える影響は想像以上に大きいことが分かります。

 

しかし、他人をバッシングしたところで、物価は上がったり下がったりするものであるという事実を変えることはできません。筆者は予言者ではありませんから、物価が今後、いくらになると断定することはできませんが、専門家として「今後、継続的に物価が上がる可能性はそれなりに高い」というところまでは責任を持って発言できます。

 

物価の継続的な上昇が発生した場合、従来の常識はほぼ100%覆ると思ってください。

物価が上昇すれば賃金もそれに合わせて上がっていくはずですが、そのタイミングはたいていの場合、物価上昇よりも後になります。日本はすでに賃金が伸び悩んでいますから、今後、インフレが激しくなれば、物価は上がるのに、給料はなかなか上がらないという状況がさらに激しくなるでしょう。

また物価が上昇すればいつかは金利も上がります。私たちの生活にもっとも影響が大きいのは住宅ローンと考えられます。今は低金利ですから、銀行に支払うお金のほとんどはローンの元本ですが、金利が上がると元本に加え金利分も多く支払う必要が出てきます。これからローンを組む人は、従来と同じ返済金額の場合、購入できる物件のグレードを下げざるを得ません。

現時点において変動金利でローンを借りている場合、金利が上昇すれば当然、返済金額も上がります。まだ金利の上昇は発生していませんが、今後、物価上昇が本格化した場合には、返済額が増える可能性について頭に入れておいた方がよいでしょう。

気が滅入る話ばかりで申し訳ないのですが、今、日本が直面している現状を冷静に分析するとこのような結果となります。これまでの日本は良いモノを安く買える住みやすい社会でしたが、そうした幸福な時代はいよいよ終わりを告げようとしています。これからは良いモノはお金を出さないと買えないという、ある意味では当たり前の時代が到来しようとしているのです。


前回記事「【給付金】バラマキか、効果なしか? 迷走続く日本に「圧倒的に欠けている」もの」はこちら>>

 
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