自分の美術作品が、日本の観客たちにどう読み解かれるのか?


——来日された際の、記憶に残るエピソードがあれば教えてください。

アン:色々ありますが、京都で小さな喫茶店に入ってコーヒーをオーダーした時、店員がお菓子の小皿とポットやカップを並べる仕草に、特に心惹かれました。まるで囲碁棋士が慎み深い動作で碁石を打つように、器をひとつずつ私の前に置く様子を見ながら、店員が器に話しかけている気がしました。レストランや旅館などでも、何度も同じような気持ちになりました。日本ではモノを空間に置く作法とそれを扱う人々の仕草が、祭儀のように一種の沈黙の言語として普遍的に使われているのだと感じました。

「愛の木」30×40cm、紙にインク、2015

——『それぞれのうしろ姿』をきっかけに、日本でもアンさんの作品や現代美術に興味を持つ人も多くいると思います。そんな日本の読者に向けてメッセージをお願いします。

アン:アートは、日常を超える美しい魅惑を与え、美術家の秀でた完成とテクニックによって観る人を感動させることが可能です。多くの美術家がそのような作品を作っていますし、私もアートのこうした可能性を否定しません。しかし、美術家のなかには、自分を省みて、社会を理解するために世に問いかけることが重要だと考える人もいます。私もそのような美術家の一人と言えるでしょう。今回、日本語版が出版された『それぞれのうしろ姿』と同じように、私の美術作品が日本の観客たちにどう読み解かれるのか気になります。

「ねじ釘」20×30cm、紙に鉛筆、2019

——新型コロナウィルスの感染状況が落ち着いてくれば、また日韓の人的交流も盛んになり多くの日本人が韓国を訪れることになると予想されます。ぜひアンさんお勧めの美術館、作品を教えてください。

アン:国立現代美術館ソウル館、ソウル市立美術館、アートソンジェセンター、サムスン美術館Leeum。これらは全てソウルの都心にある代表的な美術館で、常に注目に値する展示を行っています。また、国立現代美術館ソウル館の周りには国際ギャラリー、ギャラリー現代のようなメジャーなギャラリーが集まっていて、いつ訪れてもダイナミックな韓国の現代美術に出会うことができますよ。

 


試し読みをぜひチェック!
▼横にスワイプしてください▼

『それぞれのうしろ姿』
(辰巳出版/&books)
アン・ギュチョル:著
桑畑優香:訳

BTSのRMがファンのためのオフィシャルコミュニティに投稿し、たちまち完売となった現代美術家のエッセイ。
 

翻訳/桑畑優香
構成/露木桃子