「いきなりキス」より「全力疾走」だから伝わるもの

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“壁ドン”や“顎クイ”が流行ったように、身体的接触でキュン、とするという人が多いのもわかります。ただ、個人的な話をすると、私自身キスなどの行為をしたい気持ちがわからないし、異性の好き=身体的接触というのも、あまりピンときません。ある友人は、人を大切に思う感覚はわかるけれど、身体的接触は苦手、と言います。愛している、大切に思う=恋愛関係、とならない人も一定数いるのです。

 

また、今までの恋愛ドラマでありがちな、いきなり(許可なく)強引にキス、という描写に、苦手意識を抱く視聴者の声をよく目にするようになりました。ドラマではありだったかもしれませんが、現実でいきなりキスされたら相手が誰だろうといい気はしない、という人もいるのではないでしょうか。

確かにふたつのドラマは濃密なラブシーンはありません。
しかし、『Nのために』では希美が「助けて」と言ったら成瀬は全力疾走で駆けつけたり、『最愛』では梨央が逃げても大輝がこれまた全力疾走で追い駆けたりと、ある意味ラブシーン以上に、誰かを心から大切に思う、強く確かな愛が描かれています。この点が、恋愛描写が苦手な人も、心打たれ、共感が生まれたポイントなのではないでしょうか。

また、もうひとつは、誰かを思う、恋愛におさまらない、または恋愛以外の“愛”が、実に丁寧に、繊細に描かれているところです。

『Nのために』というタイトルの通り、主要な登場人物の名前のイニシャルは“N”。それぞれに、一番大切な“N”がいます。そして、“N”を思うがゆえに、時に罪を犯し、時に相手の罪を隠し、相手の運命を引き受けるのです。主人公の希美は、「究極の愛とは?」という問いに、「罪の共有」と答えます。共犯ではなくて、共有すること。相手の罪を知っても、一生黙って隠し通す。そして、相手に伝えずに身を引く。実際、成瀬の実家の放火事件の犯人が成瀬だと思った希美は、庇うために嘘をつき、それ以来、成瀬とは口をきかなくなります。

また、東京で再会したときに起きたスカイローズガーデンの殺人事件の犯人が希美だと思った成瀬は、何も聞かずに、希美の手をそっと握るのです。放火事件の日、燃えさかる炎を前に、手をつないだあのときのように。
 
大切だからこそ身を引く。これは、両作品が描く“愛”のかたちです。

『最愛』では優は自分が殺人を犯したことを知って、梨央の前から姿を消します。梨央も、自分と関わることで大輝の警察での立場が悪くなることを懸念して、大輝とはもう会わないと心に誓います。
 
『Nのために』では、希美や成瀬以外の登場人物も、それぞれが誰かを思い、守るために奔走します。“その人のためなら何でもする、何でもできる”そんな究極の純愛とも言える愛が描かれます。時に屈折しているような愛が描かれることもありますが、それも「この人がいなかったら、この世には何の意味はない」という、一途な、命がけの愛なのです。