春男の妄想が、現実ではまったく思い通りにならないのが可笑しかったです。お二人の印象に残った妄想は?

小池:私はやっぱり最初の場面、息子がレギュラーになれるよう、少年野球チームの監督のご機嫌を取るために、流しそうめんを100人前用意して失敗するところ。最初の方の撮影だったのですが、すごい衝撃でした。家族はいつもあれを見てるわけですよね、「パパ、また一人で何かしゃべって笑ってる」って思いながら。自分のパートナーとか父親がやってたら……でもこの家族は楽しそうだからいいですよね。

安田:流しそうめん100人前ってのはないでしょ~って思ったけど(笑)。でも取り組む姿勢はいいですよね。

でもそんな不器用さが、いとおしくも思えてきます。

小池:春男さんはとにかく優しいし、子供と接している春男さんを眺めているだけでウルっときましたね。様々な事情から子供のことを追い目に感じていた律子は、救われたし感謝してるだろうなって。スーパーヒーローみたいな感じで私は見ていました。

 

安田:「裏垢」がないこと、「拡散」しないこと、そこは僕と春男に共通するところだし、考えているところもわかります。でも最終的に善意の行動に出るところは、僕にはちょっと足りないところかもしれません。小池さん演じる律子は、監督と僕は「同性が見たときにどう感じるだろう」ってすごく気にしてたんです。でも小池さんは「私、ぜんぜんなんですけど、なにを気にしてるんですか?」って言ってましたね。

小池:律子は、何が正解かわからないけれど、それでももがきながら一生懸命生きているところに嘘がないし、春男さんの優しさを利用して「逃げ道」として一緒になったわけじゃなことは、脚本にきちんと描かれていたと思うんです。監督は「自分勝手で図々しい女性」に見えることを気にしていたので、常に心掛けてはいましたが、そのまま演じればそんな風には見えないだろうなと。もちろん春男さんと子供によって成長させてもらった人間だとは思いました。

安田:小池さんが演じた若いときの律子は、夜の海でめそめそしてたけど、最後は昼の河川敷で叫んでましたもんね。「自分勝手で図々しい女性」に見えないのは、小池さんが演じたからっていうのもあると思います。

小池:ほんとですか。うれしいです。じゃあ私が演じたから、ということで(笑)。

 


言葉少ない男性を追い詰めないほうがいいんですか(小池)
追い詰めても変わらない。よけい黙っちゃうかも(安田)


春男はいつも貧乏くじを引く、お金も名誉も無縁なタイプです。でも家族はそんな彼を愛しているし、血縁ではなく愛で結ばれています。

小池:律子さんは本当にできた人だし、私にとってはあの家族は理想ですね。春男さんは不器用だけど、そこを「だからうだつが上がらないのよ」と責めてしまったら辛いですよね。

安田:そうですね、律子だったら失業しても「明日どうするの?」って言わない気がするね。明日があるじゃない、職安行っといで! とか言いそう。

小池:でもやっぱそれは春男さんが一生懸命やってくれてるからだと思いますけどね。

 

安田:春男は春男で、家族の幸せのために自分が頑張らないとって思っているんですよ。ただともすれば甘えたくなるタイミングで、律子がお尻を叩いてくれる。ありがたい存在だと思います。そういえば今日の取材も、午前中はひとりでオドオドしながらやってたけど、小池さんが来てくれただけですごく安心ですよ。しゃべってもらえる!って(笑)。

小池:十分しゃべってるじゃないですか(笑)。でも「思ってることがあったらはっきり言ってよ!」って言われるのは、男性はどう感じるんですか? 「いつもパパは黙り込んで!」っていうセリフあったじゃないですか。うちもパートナーも自分のリズムでじゃないとしゃべらない人だから、何を考えているのかわからず悩むときはあるんです。でもあんまり追い詰めないほうがいいんですか?

安田:追い詰めても仕方がないんじゃないですか? 追い詰めても、何も変わらないし。これは決してわが家のことではなく、一般論ですが(笑)、夫婦関係で夫が黙るのには、そこに至るまでの長い過程があるのかもしれませんよね。会話してると、相手が話し終える前に、ポンと入っちゃうことあるじゃないですか。そういう状態が普通になってくると、今度は論破の関係になっちゃうと思うんですよ。ひょっとしたらそうなるとー-これ、あくまで一般論ですけど、一方は黙っちゃうんじゃないかな。