相手のことが好きで知りたければ五感を使って感じとる(小池)
僕がボソボソ喋るから聞こえないって言えなかったんだと思う(安田)

 

一昔前なら映画の主人公にはならないタイプかもしれないなと思いました。ちょっと元気がないこの時代に、そういうキャラクターが主人公になることは何か意味があるようにも思えます。

安田:今ふっと思い出したんですけど、僕が子供の頃に人気だったテレビ番組「オレたちひょうきん族」で、明石家さんまさんが演じた「サラリーマン」っていう伝説のキャラクターがあるんですよ。2週しか登場しなかったんですが。

小池:さえないサラリーマン?

安田:サラリーマンの格好で「私はサラリーマンです」っていうだけ(笑)。裏の裏を狙ってそうなったんだろうけど。でもこの映画では2時間主役ですね。

小池:この10年くらいで、この職業がすごいとか、こういう人が偉い、特別っていう感覚が変わってきてるんでしょうね。誰もが主役になれる社会と言うか、そういう感覚になってきてるのかな。

安田:春男みたいな人って意外と多いのかなって思うんですよ。回し車の中のハムスターみたいに、一生懸命回してるんだけど空回りで、志もあるし良かれと思ってやってるんだけど、なかなかうまくいかない。こういう時代を乗り切るには自己肯定のマインドを持つことって話を、最近よく聞くじゃないですか。この映画って、その自己肯定感をくれる作品のような感じはしますよね。これでいいんだよ、っていう。

小池:そういう時に、手助けしてくれる人の存在があるかないかは大きいですよね。春男さんにとっては律子がそうだし、春男さんも律子の過去を責めないし。

夫婦や家族のコミュニケーションについて考えました。というのは、春男の周辺って、彼が心の中で思うこと、口に出すこと、周囲の理解が全部バラバラなんですよね。

安田:確かに。

小池:でもそういうものなんじゃないですか。人間って自分がそうあってほしい形で解釈するから。その行き違いを合わせながら生きていくこですよね。「そうそう、私もそう思ってた」ってことのほうが、もしかしたら珍しいのかも。 

安田:的確に相手に伝わる言葉を持ててる人って尊敬しますね。私も相手を慮ったつもりの「たとえ話」がぜんぜんズレてるってことあります。この間も衣装合わせで、頭が坊主刈りの役だったんですが、今剃ると途中で髪が伸びてきちゃうって話を、女子プロレスの「髪切りマッチ」みたいな感じに……って話したけど、全然伝わらなかった(笑)。発想がズレてたり、自分があまりにボソボソしゃべるから相手に聞こえてなくて、そのせいで話がズレてくこともあるし。聞こえてないって、僕に言いにくいんだろうなあと思ったり。

小池:でもそれでも人間関係ってできていく気がしますよね。こっちも想像力を働かせるし、それこそ関係が続いていけば、言ってることはわかんなくても感情は読み取れるようになる。相手のことが好きで知りたいと思えば、五感を使って感じ取るんだと思いますよ。

安田:うちの奥さんがそうなんです。いろんなとこで話してるんだけど、結婚して8年目に「ずっと言えなかったんだけど、何言ってるかわかんない」って。今までどうしてたんだ? って聞いたら、なんとなくやってた、って言ったんだから(笑)。

 


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安田顕(Ken Yasuda)
1973年生まれ、北海道出身。映画・ドラマ・舞台など数々の話題作に出演し、硬軟自在な個性派俳優としてその地位を確立する。15年『龍三と七人の子分たち』(北野武監督)で、第25回東京スポーツ映画大賞助演男優賞受賞。近年の主な作品は『俳優 亀岡拓次』(16/横浜聡子監督)、『追憶』(17/降旗康男監督)、『銀魂』(17/福田雄一監督)、『家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。』(18/李闘士男監督)、『愛しのアイリーン』(18/吉田恵輔監督)、『ザ・ファブル』(19/江口カン監督)、『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』(19/大森立嗣監督)、『影裏』(20/大友啓史監督)、『ホテルローヤル』(20/武正晴監督)など。待機作に『ハザードランプ』(22/榊英雄監督)、『リング・ワンダリング』(22/金子雅和監督)、『とんび』(22/瀬々敬久監督)がある。

 

小池栄子(Eiko Koike)
1980年生まれ、東京都出身。主演映画『接吻』(08/万田邦敏監督)では第63回毎日映画コンクール女優主演賞など、『八日目の蟬』(11/成島出監督)では第85回キネマ旬報ベスト・テン助演女優賞、第35回日本アカデミー賞優秀助演女優賞など数多くの賞を受賞した。近年の主な出演作は『記憶にございません』(19/三谷幸喜監督)、『グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~』(20/成島出監督)、『地獄の花園』(21/関和亮監督)、『いのちの停車場』(21/成島出監督)など多数。

(小池栄子さん着用衣装)
セーター¥16500、スカート¥42900/ランバン オン ブルー(レリアン) 
お問合わせ先:03-6834-7224

 

<映画紹介>
『私はいったい、何と闘っているのか』
12月17日(金)全国ロードショー

©2021 つぶやきシロー・ホリプロ・小学館/闘う製作委員会

伊澤春男(安田顕)・45歳は、地元に愛されるスーパー”ウメヤ”の万年主任。
職場では店長の上田(伊集院光)からの信頼も厚く、クールで常に理性的な高井さん(ファーストサマーウイカ)や、やや暑苦しいが真面目な金子くん(金子大地)といった個性あふれる部下たちにも恵まれ、日々楽しく働いている。
一方で家に帰れば、しっかり者の妻・律子(小池栄子)、長女・小梅(岡田結実)、次女・香菜子(菊池日菜子)、小学生の長男・亮太(小山春朋)の5人家族の父親で、典型的なマイホームパパ。
しかし、一見平凡そうに見える春男の脳内は毎日が戦場だった!24時間忙しいその頭の中は休まるヒマがなく、仕事でも家庭でも常に空気を読みムダに気を遣いまくるが、良かれと思ってやったことがことごとく裏目に出てしまう。
「俺の人生はいつもこうだ。俺は…いったい“何と闘っているのか”」
そんなある日、“ウメヤ“に緊急事態が発生。衝撃を受けつつも、「次の店長は伊澤さん!?」という職場&家庭からの期待をビシビシ感じ、すっかりその気になる春男。だが次の店長は、本部からやって来た明らかに年下でやる気なさげな西口(田村健太郎)。
春男は急ごしらえ感の否めない“副店長”の座に収まることに…。
また春男の気遣いもむなしく、全く空気の読めない西口新店長の評判は芳しくない。
さらに追い打ちをかけるように、スーパー内での“内引き”疑惑が浮上したり、娘の小梅からは恋人のガッキーこと梅垣(SWAY)を紹介したいと迫られたり、受難の日々は続く。そんな局面を何とか乗り切りながら、ついに新店長という嬉しい打診が舞い込んできた。
今度こそMAXで舞い上がる春男だったが……。

安田 顕 小池 栄子
岡田 結実 ファーストサマーウイカ SWAY(劇団EXILE)  金子 大地
菊池 日菜子 小山 春朋 田村 健太郎 佐藤 真弓 鯉沼 トキ 竹井 亮介 久ヶ沢 徹
伊藤 ふみお(KEMURI) 伊集院 光 白川 和子
 
原作:つぶやきシロー「私はいったい、何と闘っているのか」(小学館刊) 
監督:李 闘士男  
脚本:坪田 文「家に帰ると必ず妻が死んだふりをしています。」 
音楽:安達 練  
主題歌:ウルトラ寿司ふぁいやー「今すぐアナタを愛したい」(AMUSE)
制作プロダクション:ダブ  
配給:日活・東京テアトル 
公式サイト:https://nanitata-movie.jp/
©2021 つぶやきシロー・ホリプロ・小学館/闘う製作委員会


撮影/塚田亮平
ヘア&メイク/西岡達也(Leinwand・安田さん)、
山口公一(SLANG・小池さん)
スタイリング/村留利弘(Yolken・安田さん)、
えなみ眞理子(小池さん)
取材・文/渥美志保
構成/川端里恵(編集部)