三つ目のわらじ


勤務先には、通訳ボランティアについては報告済みでしたが、さすがに帯同となれば話は別。事前合宿などもふくめて冬の間は海外暮らしになるでしょう。会社員とは両立できそうもありません。

それでも連盟の方が「深井さんに帯同してほしい」と言ってくださったことが、本当に嬉しかったんです。だって、思い出してください、私の暗黒時代を(笑)。何もできないと思い込んでいたのに、「あなたがいい、一緒に働きたい」と言ってもらえた。

そして実はこの頃、これからのキャリアについてある思いが強くなっていました。

私の実家は、古くから繊維商社を営んでいて、父が3代目の社長です。そして弟と従兄弟がその会社と協働して、新事業を立ち上げました。従兄弟が立ち上げた心地よさとデザイン性を追求したマスクブランド『We'll』と、弟が立ち上げた、ヴィーガンダウンとして脚光を浴びはじめた植物由来のダウンを使ったブランド『KAPOK KNOT』

時代の追い風を受けたこの二つのブランドは、メディアにも取り上げていただいて、急成長中でした。

そんな中、銀座に取り壊しが決まっているために格安で借りられるビルがあり、そこに二つのブランドをメインにしたポップアップ店舗を出す話が浮上します。

マスクもダウンも身内の贔屓目ナシに凄い製品だと思っていたので、SNSで宣伝し、着用していました。でもそれは、あくまでもユーザーとしての応援。ところが弟たちからもう一歩踏み込んだオファーをもらったのです。

「僕たちは商品開発や宣伝を頑張るから、信頼できて、この製品を愛してくれる人にポップアップ店舗『The Crafted GINZA』を任せたいんだ。瑛子しかいない」

そう言われたとき、素直に嬉しさが胸の内いっぱいに広がりました。

150店舗のスポーツ用品売り上げ管理には失敗してしまった。でも、もう一度それを糧にして挑戦できるチャンスが来たのです。おまけに大好きな弟と従兄弟と一緒に、大好きな製品をみんなに広めることができる。

 

やってみたい。心からそう思いました。

でも、本当にできるんだろうか。ポップアップ店舗は期間限定ですが、この先もほかの形で展開していけば会社員と並行するのは難しいでしょう。

 

大好きな会社の同僚たちの顔が思い浮かびました。私の「得意」を引き出してくれた場所です。

でもその時、小さい頃から祖父が繰り返し私に言っていた言葉が、まるで何かのお告げのようによみがえってきました。