生きているだけで病気になることもある


人間は年齢を重ねていく中で、病気を持つことがあります。そして、そこには特に原因がないという場合も数多くあります。何も原因がなくても、生きているだけで病気になってしまうことがあるのです。

普段やっている単純な作業でもミスを起こすことがあるように、あるいはパソコンが突然バグを起こすことがあるように、人間の身体も日々生きている中でミスを起こすことがあります。そうやって様々な病気を起こしてしまうことがあるのです。

Dさんには、便に血が混じる、体重が減っているという情報に加えて貧血も認められたため、これらの情報から大腸がんの可能性を疑い、大腸内視鏡検査の依頼をしました。

結果として、疑っていた通りに大腸がんが見つかり、のちの検査で肝臓や肺への転移も見つかりました。「最近まで体調は悪くなかった」のに、です。


こうして統計を見ていると、逆に若い頃から重点的に予防しなければならないポイントが見えてきます。入院したり命を落としたりする理由で多いのが、脳卒中、がん、心疾患、肺炎であれば、これらを予防する策をとっておけば、多くの病気を防げそうです。

この方のストーリーが、私たちに教えてくれることがあります。「体調が良い」=「病気がない」ではないということです。当たり前だと思える人もいるかもしれませんが、これは改めて確認しておくべき大切なことです。

 

私たちは、多くのがんが、あるいは多くの病気が、症状を出さないことを知っています。また、症状が出た時にはもう手遅れとなる可能性があることも知っています。

私はこの時、医師として「悔しい」という感情を持ったのを覚えています。大腸がん検診の重要性がより多くの人に認知され、大腸がん検診で見つかっていれば、より早く見つかり、より早く治療が始まることで根治できる可能性もあったからです。

「たられば」を言っていても仕方がないかもしれませんが、Dさんの体の中ではすでに肝臓や肺にがんが広がっており、残念ながら根治する術は見つかりませんでした。