ハリウッド映画のスタイルを拒否感なく受け入れ、それを自分たちのやり方で再解釈して作品を作り出す


――本作では日本もロケ地になっていて、白竜さんや豊原功補さんも登場します。作品には日本映画の影響も見られるように感じます。

ホン:日本の監督にたくさん影響を受けました。上の世代では、小津安二郎監督、黒澤明監督。成瀬巳喜男監督も、韓国で回顧上映が行われると必ず足を運びます。最近では黒沢清監督の映画もよく見ます。ヨーロッパよりも日本の映画、特にノワール作品の雰囲気がいい。北野武監督や深作欣二監督の『仁義なき戦い』シリーズなどからもインスパイアされていて、本作にもそれが表れているのではないかと思います。

ホン・ウォンチャン(写真右):1979年生まれ。『チェイサー』(08)『哀しき獣』(10)『殺人の告白』 (12)などの脚本に携わり、観客を魅了してきたホン・ウォンチャン。監督デビュー作『オフィス 檻の中の群狼』(15)がいきなりカンヌ国際映画祭に招待され、世界にその才能を知らしめた。本作では監督・脚本を務め、“この映画は闇の世界に存在する人物、罪の意識を持つ人物が他人を救うことで自分も救われていく物語”であり、”主の祈りに着眼した“と話している。また『哀しき獣』『チェイサー』『殺人の告白』など多数のノワール映画に携わった経験を活かし、撮影中もスタッフ及び俳優たちと絶えず意見交換をしながらより質の高い作品を目指した。写真は『ただ悪より救いたまえ』撮影中に、主演のファン・ジョンミンさん(写真左)と撮影。

――韓国の映画やドラマが世界で人気を得ていますが、理由は何だと思いますか? 監督が感じるここ数年の業界の変化や、韓国エンタメの強みとは。

ホン:韓国的なものにとらわれることなく、ハリウッド映画の要素を取り入れ、表現する分析力が優れているのでしょう。韓国映画は、いまの世界市場をリードするアメリカ映画の影響を強く受けています。ハリウッドシステム、ハリウッド映画のスタイルを拒否感なく受け入れ、それを自分たちのやり方で再解釈して作品を作り出すのに長けているのだと思います。「イカゲーム」や映画『パラサイト 半地下の家族』の世界的ヒットをきっかけに、業界内では海外進出しようという機運がさらに高まっています。外国の人たちが韓国映画やドラマに関心をもつ追い風が吹いているので。また、コロナ禍によって映画が劇場上映で収益を上げるのが厳しいなか、ネット配信のドラマが好調で、映画監督がドラマに乗り出すケースが増えているのも強みではないでしょうか。

 

「イカゲーム」のイ・ジョンジェ最新作! 映画『ただ悪より救いたまえ』名場面集
▼右にスワイプしてください▼

<映画紹介>
『ただ悪より救いたまえ』
12月24日(金)よりシネマート新宿、グランドシネマサンシャイン 池袋ほか全国ロードショー

 

監督/脚本:ホン・ウォンチャン『チェイサー』『哀しき獣』(脚本)
出演:ファン・ジョンミン『ベテラン』、イ・ジョンジェ『新しき世界』、パク・ジョンミン『それだけが、僕の世界』
配給:ツイン
https://tadaaku.com/


取材・文/桑畑優香
構成/露木桃子