どのスタッフも同じように選手の身体と心をケアできる、そんな体制作りも必要

 

「長野五輪が26歳のとき。その後、同じペースで練習を続けていたら、30歳前にヘルニアが悪化して手術を受けることになったんです。そのときにいろいろな方たちと一緒にリハビリトレーニングをおこなって。そうすると、迷いなくトレーニングできる人もいれば、辛くて心折れてしまう人もいる。いろいろな人たちを見て、私はたまたま精神的に強いけれど、そうじゃない人もいっぱいいるんだ、そうなると精神論をゴリ押ししてもダメだよね、と強く感じるようになっていきました。
とくに女性ってホルモンバランスに左右されることもあって、身体のケアだけでなくメンタルのケアも大事。アスリートは成績が良くないと落ち込んでしまうので、月経前・月経中はさらにメンタル不調が悪化するなど、負の連鎖が起きやすい。
スピードスケートは個人競技ではありますが、普段はチームとして一緒に練習をします。皆、トレーニング外ではドラマやアイドルのことなど他愛ない話ばかりするくらい気心知れている仲間たち。自分の手術がきっかけで、チームメイトに先輩として接する心構えが作れたのかもしれません」

さらに岡崎さんは、どのスタッフも同じように選手の身体と心をケアできる、そんな体制作りも必要だと感じられたそうです。

「海外の大会に行くと、北欧のチームはドクターやスタッフの数がすごく多いな、と気づいたんですよ。今は違いますが、私が若かった頃は、選手は企業に所属していて企業単位で動いていた。オリンピックのときだけ即席のジャパンチームができる、という感じだったんです。だから当然、細やかなところまでケアは行き届いていませんでした。
北欧のチームは飲み物一つでも、栄養ドリンクのようなものが入った大きなタンクを運んできたりしていて、いろいろと体制が整っている印象でした。日本も今はチームジャパンとして動いているので健康管理はもちろん、女性スタッフも増えるなど整ってきています。2018年の平昌オリンピック後は、男性スタッフも女性の身体についての教育を受けるなど、全体的な底上げが進んだようです。北京オリンピックで、選手たちはのびのびと競技しているように見えたので、今は大きく困っていることはないのではないかと思います」

実際、女性選手の引退年齢は年々高くなっています。昔は24,5歳で引退する人が多かったのですが、今は30歳過ぎまで続けるのは当たり前だそう。岡崎さん自身も、42歳まで現役を続けることができました。

「選手自身のケア意識が高くなったのと、ドクターやトレーナーやスタッフなど、サポート体制が手厚く整ってきました。チームとしての目標が高くなっている分、着実に環境は進化しています。今後の課題は、その下のユースの選手たち。成長期の頃からハードな練習をしていますし、昔より身体・精神ともに成長が早くなっている。だけどその世代の選手たちのフォローやサポート体制となると、まだ追いついていない。今はここを何とかしていかなければ、と強く感じているところです」